軽度認知障害 (MCI:mild cognitive
impairment) 認知症の手前で進行を遅らせる/戻す
このページのまとめ
軽度認知障害(MCI:mild cognitive
impairment)は、本人やご家族が認知機能の低下を自覚し、検査でも軽度の低下が認められる ものの、日常生活の自立は保たれている 段階を指します。「認知症の手前」の状態です。
MCI には4 つのサブタイプ (健忘型/非健忘型 ×
単一領域/複数領域)があり、進行すると現れる認知症の病型が異なります。さらに、進行する人もいれば、正常へ戻る人もいる のが特徴で、MCI から5 年で
43% が認知症へ進行する一方、38% はもとの正常な認知機能へ戻る と報告されています3 。
早期介入 (運動・多因子介入・血管リスク管理・難聴補正)と治せる原因の見極め が、その後の人生を大きく変える時期です。当院では MoCA-J を用いた MCI
拾い上げと、原因評価から早期介入指導までを一貫して担当し、抗 Aβ 抗体療法の対象になる方は認定施設へつなぎます。
⚠ 急速進行・幻視併発・歩行障害を伴う MCI はこちら
こんな"少しだけのもの忘れ"はありませんか?
約束や用事を忘れることが増えた が、ヒントがあれば思い出せる
言いたい言葉がすぐに出てこない /人や物の名前が出にくい
料理・家計・服薬管理など段取りに時間がかかる が、最終的にはできている
運転・買い物・通院など日常生活はおおむね自立 している
家族から「最近少しおかしいかも」と客観的に指摘 された
MMSE 24点以上は保たれているがMoCA-J で 25/26 点以下
これらは MCI
の典型的なサインです。「年のせい」「誰でもこれくらいある」と片づけず、進行する人と戻る人が混在する段階 だからこそ、原因を確認する価値があります。
5〜6人に1人
65歳以上の MCI 有病率15
38%
MCI から正常へ戻る人の割合3
25%
多因子介入で得られた認知機能の改善幅6
MCI は「もう手遅れ 」ではなく、「これからの 5
年で何ができるか 」を考えるべき段階です。運動・血管リスク管理・難聴補正・社会参加・睡眠 など修正可能な要素を組み合わせるほど、進行抑制と機能回復の余地は積み上がります。
MCI の 4 サブタイプ 4
サブタイプと、除外が必要な原因
MCI は記憶障害が前景か(健忘型 amnestic) /記憶以外が前景か(非健忘型
non-amnestic) 、そして単一領域か /複数領域か で 4 つに分類されます1 4 。サブタイプごとに進行すると現れる認知症の病型が異なり、生活介入と治療の組み立ての方向性も変わります。
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aMCI-sd / 健忘型・単一領域
最頻型
記憶のみが障害される MCI
「もの忘れ」だけが目立ち、考える・話す・地理感覚は保たれているタイプ。アルツハイマー型に進む人が最も多い サブタイプです。
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「もの忘れ」だけが目立ち、考える・話す・地理感覚はおおむね保たれている段階。アルツハイマー型に進む人が最も多いサブタイプで、早期に見つけると治療の選択肢が広がります。
同じ話を繰り返す・約束を忘れる がご家族から指摘される
段取りや会話、道に迷う などは比較的保たれている
進む先として最も多いのはアルツハイマー型認知症(AD)
原因が AD と確認できれば抗 Aβ 抗体療法 の検討対象になる
aMCI-md / 健忘型・複数領域
記憶+他領域が障害される MCI
「もの忘れ」だけでなく、段取りや言葉、地理感覚など複数の能力 に影響が出てきているタイプ。AD・混合型・血管性に進む人が多めです。
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「もの忘れ」に加えて段取り・言葉・地理感覚 などにも影響が出てきている段階。脳卒中既往や血管リスク(高血圧・糖尿病)を伴うことが多く、進行先も複数の病型が考えられます。
もの忘れ+料理や買い物の段取りが悪くなった 気づき
もの忘れ+言葉が出にくい・道に迷いやすい 気づき
進む先として多いのはAD / 混合型 / 血管性
高血圧・糖尿病・心房細動の管理を中断しないことが予防の柱
naMCI-sd / 非健忘型・単一領域
記憶以外の単一領域が障害
「もの忘れ」は目立たず、段取り・言葉・地理感覚のどれか1つだけ に偏った困りごとがあるタイプ。レビー小体型・前頭側頭型・血管性に進む人がいます。
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「もの忘れ」は目立たず、段取り・言葉・地理感覚のどれか1 つだけ に偏った困りごとがある段階。どの領域が苦手かによって、進む先となる病型のあたりが付きます。
視空間が苦手+幻視や受け答えの波 → レビー小体型を意識
段取りが苦手+性格や行動の変化 → 前頭側頭型を意識
脳卒中既往+ろれつや歩行の悪化があれば血管性 を意識
必要に応じてMIBG/DAT スキャン などの専門検査で鑑別する
naMCI-md / 非健忘型・複数領域
記憶以外の複数領域が障害
「もの忘れ」は目立たないが、段取り・気分・幻視・歩きにくさなどが重なって 出てくるタイプ。レビー小体型・血管性・前頭側頭型に進む人が代表的です。
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「もの忘れ」は目立たないが、段取り・気分・幻視・歩きにくさなどが重なって 出てくる段階。早期から複数の症状が出るぶん、ご家族の気づきが診断の手がかりになります。
幻視・受け答えの波・夢で動く などが重なる → レビー小体型を意識
性格・行動の変化+段取りの悪さ が重なる → 前頭側頭型を意識
脳卒中既往+段階的な悪化 があれば血管性を意識
立ちくらみ・便秘などの自律神経症状 もご家族の気づきに含める
除外が必要な原因
MCI due to AD
DMT 対象
アルツハイマー型のサインがある MCI
検査でアルツハイマー型のサイン が出ている MCI。抗 Aβ
抗体療法 (新しい点滴治療)の対象になり得るタイプで、認定施設へつなぎます。
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脳の検査でアルツハイマー型の原因物質(アミロイドβ)の蓄積が確認される段階の MCI。抗 Aβ 抗体療法 の対象となるため、気づきから受診までの早さが選択肢の幅を決めます。
aMCI-sd(健忘型・単一領域)の方はこのタイプの可能性が高い
当院の MRI+採血で除外すべき他の原因 を先に整理する
必要時は認定施設でアミロイド PET/髄液検査 へつなぐ
進行してからでは適応外になるため、気づいた段階での受診 が大切
TREATABLE / 治せるもの忘れの除外
最初に行う
iNPH/CSDH/甲状腺/B12/うつ
「MCI かも」と思っていたものが、治療で改善する病気 のことがあります。MCI と決める前に、まず治せる原因を必ず除外します。
気づき方の手がかりが疾患ごとにはっきりしている領域です。MCI と決める前に、まず次のサインがないかをチェックします。当てはまるものがあれば「治せるもの忘れ」ページで詳細をご覧ください。
頭部打撲の数週〜数ヶ月後 にじわじわぼんやり → 慢性硬膜下血腫
もの忘れ+小刻み歩行+尿失禁の 3 徴 がそろう → 正常圧水頭症
寒がり・体重増加・両手のしびれ などを伴う → 甲状腺機能低下・ビタミン B12 欠乏
意欲低下・気分の沈み が目立つ → うつ病性のもの忘れ(仮性認知症)
サブタイプに応じて注意すべき症状(幻視・脱抑制・段階的悪化) や追加検査(MIBG/DaT/脳血流シンチ/髄液) の優先度が変わります。MCI
と判定したら、すでに認知症の方向性 を視野に入れて経過観察と介入を組み立てます。
認知症(4大病型)ページへ
受診から診断までの流れ
MCI
診療では、"認知症ではない"を確認する 作業と、"治せる原因を見落としていない"を確認する 作業を並行して行います。MoCA-J による拾い上げ、頭部 MRI
と採血での原因評価、必要時の専門検査を組み合わせて、サブタイプと進行先の予測まで一度の診療で組み立てます。
問診
訴えの内容・進行スピード(数年単位の緩徐 vs
数か月単位の急進)・気分・睡眠・薬剤・既往(高血圧・糖尿病・脳卒中・甲状腺)・家族歴・社会機能(仕事・運転・買い物・服薬管理)。本人が訴えなくてもご家族から見た変化 を必ず確認します。
神経学的診察院内で実施
パーキンソニズム(無動・固縮)/歩行(小刻み・開脚・すり足)/脳神経・反射・巣症状の有無を確認します。歩行障害が認知低下に先行 /
並行 している場合は iNPH の可能性を念頭に置きます。
認知機能評価院内で実施
MMSE (30点満点。MCI 域は 24〜27 が目安)・HDS-R (21〜26 が MCI
領域)に加え、MoCA-J (30点満点。25/26 点以下で MCI
疑い )が拾い上げに優れます。仮性認知症疑いではGDS-15/PHQ-9 を併用し、必要時は神経心理士による Wechsler 系評価まで広げます。
頭部 MRI院内で当日実施可
VSRAD で海馬萎縮の定量、白質病変・血管病変の評価、硬膜下血腫・脳室拡大(DESH
所見)など治療可能な原因を漏らさず除外 。微小出血の数を確認し、将来的な抗Aβ抗体療法の適応評価にも備えます。
スクリーニング採血院内で当日実施
甲状腺機能 ・ビタミンB12/葉酸 ・電解質・腎肝機能 ・血糖/HbA1c・脂質 ・必要時
梅毒(TPHA/RPR)。甲状腺機能低下やビタミンB12 欠乏 は治療で改善し得る原因なので、MCI のラベルを貼る前に確実に除外します。
必要時の追加検査と専門連携外来〜紹介
病型のあたりがついた段階で、確定診断・治療適応評価のための追加検査を組み合わせます。
MCI due to AD 疑い
Aβ PET / 髄液 Aβ42/40 比 が陽性 認定施設で実施
DLB(レビー小体型)疑い
MIBG 心筋シンチ/DAT スキャン/PSG(睡眠ポリグラフ)
iNPH(特発性正常圧水頭症)疑い
タップテスト/脳神経外科評価
早期介入の組み立て 非薬物療法が主役
MCI
段階ではコリンエステラーゼ阻害薬の有効性は確立していません (保険適応外)。一方で運動・多因子介入(FINGER)・血管リスク管理・難聴補正 は、進行抑制・機能改善のエビデンスが積み上がっており、組み合わせるほど効果が上乗せされます。MCI
due to AD と確定した特定例では、認定施設で抗Aβ抗体療法 が選択肢になります。
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EXERCISE / 運動療法
有酸素+レジスタンスを週 150 分
速歩や水中歩行を週 150 分 。MCI 介入でもっとも効果が確かな柱 です。
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MCI 介入で最もエビデンスが強い柱。有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせると、認知機能に小〜中程度の改善が示されています7 。続けられる種目を一緒に探すのが診療の役目です。
会話できる程度の息切れ で 30 分/日が目安(速歩・水中歩行・自転車・体操)
運動を続けると海馬の体積が増える 報告がある8
整形外科疾患・心血管リスクのある方は無理のない範囲 で開始
独りで続けにくい方は地域の体操教室・通所サービス も選択肢
MULTI-DOMAIN / 多因子介入(FINGER 型)
栄養+運動+認知+血管リスク管理を同時に
運動・食事・血管リスク管理・認知刺激を組み合わせると認知機能が改善する ことが、大規模試験(FINGER
試験 )で示されています。
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運動・食事・認知・血管リスクを単独で行うより、組み合わせるほど効果が上乗せ されると分かっています(FINGER 試験6 ・日本では J-MINT 試験16 )。当院では一人ひとりの生活に合わせて優先順位を一緒に決めます。
食事 :地中海食/MIND 食(魚・野菜・全粒穀物・オリーブオイル中心)を意識
認知刺激 :計算・読み書き・趣味の上達など、頭を使う習慣を一日 1 つ
血管リスク :高血圧・糖尿病・脂質・心房細動の管理を中断しない
当院では生活介入のチェックリストを共有し、ご家族と一緒に振り返ります
VASCULAR / 血管リスク管理
高血圧・糖尿病・脂質・心房細動の管理
脳卒中予防=認知症予防 。生活習慣病の管理が、修正可能な認知症リスク因子の最大の柱です。
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修正可能な認知症リスク因子の最大の柱。Lancet Commission 2024 では 14 因子の管理で45% が予防可能 と報告されています12 。脳卒中の予防がそのまま認知症の予防になります。
降圧目標 :可能な範囲で 130 mmHg 未満を意識
糖尿病 :HbA1c 7.0% 未満(年齢・併存症で個別調整)
LDL コレステロール・心房細動 の管理を中断しない
禁煙・節酒 は始めるのに遅すぎる時期はない
SENSORY-SOCIAL / 感覚・社会・睡眠
難聴補正・社会参加・睡眠・うつ介入
難聴・社会的孤立・睡眠・うつ へのアプローチも認知機能維持に効きます。とくに補聴器 は中年期最大の予防可能因子です。
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中年期最大の予防可能因子のひとつが難聴 です(ACHIEVE 試験11 で補聴器使用が認知機能維持に有効と示されました)。睡眠・社会参加・抑うつへの介入も組み合わせます。
耳が遠くなったと感じたら補聴器 を試す(早いほど効果が出やすい)
大きないびき・日中の強い眠気 があれば睡眠時無呼吸(OSAS)を評価
夢で大きく動く・寝言で叫ぶ(RBD)はレビー小体型の前ぶれ のことがある
抑うつ・社会的孤立 には早めに介入(受診・通所・趣味の場)
DMT / 抗Aβ抗体療法(MCI due to AD)
レカネマブ/ドナネマブ — 早期 AD への DMT
アルツハイマー型のサインがある MCI が対象。当院で早期発見し認定施設へつなぐ のが当院の役割です。
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アルツハイマー型のサインがある MCI(MCI due to AD)が対象。MCI 段階で気づけるかどうかが、抗 Aβ 抗体療法の選択肢を持てるかを左右します。当院は早期発見と認定施設へのスムーズな紹介を担います。
対象は早期段階のみ (MCI due to AD・軽度 AD)。進行してからでは適応外
事前にアミロイド PET / 髄液検査 でアミロイドβの蓄積を確認する必要
進行を止める のではなく、進む時計をゆっくり回す 治療
定期的なMRI モニタリング で副作用(脳浮腫・微小出血)をチェック
当院の役割:MCI 段階での気づきと認定施設へのスムーズな紹介
PHARMA-CAUTION / 薬の注意
MCI へのコリンエステラーゼ阻害薬は推奨しない
MCI には抗認知症薬は使いません (保険適応外)。生活介入が主役で、要らない薬の見直しも大事です。
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MCI 段階での抗認知症薬(ChEI)は、複数の試験で進行抑制効果が示されていません 。費用や副作用を考えると、MCI へのルーチン投与は推奨されないのが現状で、診断が AD に至ってから検討するのが原則です。
抗認知症薬は MCI には保険適応外 (AD と診断されてから検討)
サプリ・脳活性飲料 への過度な依存は避け、生活介入を主役に
もの忘れを悪化させやすい抗コリン作用薬・睡眠薬 の見直しを検討
定期フォローで認知症への移行を見逃さず、必要時に治療を開始
進行リスクと予後 あなたはどちら寄り?
MCI と診断された方には、進行する人 と正常認知機能へ戻る人 がいます。MCI と診断された方を 5
年間追いかけた研究では、43% が認知症へ進行・38% が正常へ戻った と報告されています3 。以下の手がかりで「あなたがどちら寄りか」を見立て、介入の強さを調整します。
▲
進行しやすい方
早めに精査と介入を進めるほうが安心です
AD 関連の所見あり :Aβ PET 陽性/髄液 Aβ42/40 低下/p-tau217 高値
画像所見 :海馬萎縮(VSRAD Z スコア 2 以上)/白質病変が広範
遺伝要素 :ApoE ε4 アレル(特にホモ接合)
血管リスク :高血圧・糖尿病・心房細動のコントロール不良
背景因子 :65 歳以上/抑うつ/教育歴が短い/社会的孤立
進行速度 :数か月で MMSE 2 点以上低下する急速進行
✓
戻りやすい方
生活介入だけで正常へ戻る可能性があります
年齢・知的予備能 :若年/教育歴が長い
低下の程度が軽い :MMSE 27〜29 点と軽度
背景に治せる原因 :抑うつ・薬剤・全身状態の影響を受けていた
AD 所見なし :Aβ 陰性/海馬萎縮なし
時間が経つほど認知症へ進む人の割合は増えます3
累積進行率 とは、MCI
と診断された方を一定期間追いかけたときに、その時点までに認知症へ進んだ方の合計割合 のことです。
1 年 5%
2 年 16%
3 年 23%
4 年 31%
5 年 43%
こんな症状はすぐ受診を
MCI でも"普通の MCI"ではない経過は専門評価が必要です
数か月単位で急速に進行 するもの忘れ → CSDH/iNPH/NCSE/代謝性脳症/自己免疫性脳炎の除外を最優先
幻視併発 ・パーキンソニズム・RBD を伴う MCI → DLB の前駆段階の可能性
歩行障害が認知低下に先行 / 並行 して進行 → iNPH(特発性正常圧水頭症)の可能性
65 歳未満の若年発症 の MCI → 家族性 AD・FTD・自己免疫性脳炎・治せる原因を専門で精査
激しい行動異常・脱抑制 を伴う → FTD の前駆段階の可能性
ふらつき・複視・四肢のしびれ・脊髄症状 → B12 欠乏/血管性/構造性病変の可能性
抑うつ・自殺念慮 を伴う → 仮性認知症・うつ併存の評価。「死にたい」と訴えるなら緊急対応
あなたの MCI の緊急度をご確認ください
緊急
すぐに救急受診
意識がもうろうとして戻らない /けいれん
突然の頭痛+意識変容(くも膜下出血疑い)
急な片麻痺・構音障害を伴う認知低下(脳卒中疑い)
119に電話する
注意
数日以内に受診
数か月で急速進行する MCI
歩行障害+認知低下+尿失禁(iNPH 疑い)
幻視・パーキンソニズム+認知低下(DLB 前駆疑い)
頭部外傷既往+もの忘れ進行(CSDH を除外)
0942-42-1155 に電話
相談
予約して受診
緩徐な進行で「ヒントで思い出せる」レベルのもの忘れ
家族から「最近少しおかしいかも」と指摘された
MoCA-J で 25/26 点以下を疑う/早期介入を始めたい
WEB予約・アクセス
よくある質問
MCI と診断されたら必ず認知症になりますか?
必ずではありません。 MCI と診断された方を 5 年追いかけた研究では、5 年で 29% が認知症へ進行・38%
がもとの正常な認知機能に戻った と報告されています3 。「進む人」と「戻る人」が混在するからこそ、個別のリスク評価が大切です。
戻る ① 約 4
割はもとの正常な認知機能に戻る
背景に抑うつ・薬剤・全身状態 の影響がある例、若年・教育歴が長い例、Aβ
バイオマーカーが陰性の例では戻りやすい傾向があります。原因評価で見つけられる "戻れる要素" を取りこぼさないことが大事です。
② 5 年で約 4 割は認知症へ進行 する
Aβ バイオマーカー陽性/海馬萎縮(VSRAD Z スコア 2 以上)/ApoE ε4
アレル/コントロール不良の血管リスクがあると、進行リスクは高まります。早めに認定施設へつなぐ判断が必要です。
③ 半年〜1 年ごとの定期フォロー で方向性を見極める
同じ MCI でも数か月で方向が変わることがあります。MMSE/MoCA-J + 必要時 MRI
を組み合わせて進む側か戻る側か を継続的に評価し、介入の強さを調整していきます。
MCI に効く薬はありますか?
MCI
段階でコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI) の認知症進行抑制効果は確立していません (保険適応外)。
ドネペジル・ガランタミンの MCI への効果は試験で示されていない
サプリ・脳活性飲料への過度な依存は推奨しない
抗コリン作用薬・ベンゾジアゼピン系は減量を検討
MCI due to AD と確定した特定例で抗Aβ抗体療法 が選択肢(認定施設)
主役は薬ではなく運動・多因子介入・血管リスク管理・難聴補正
MoCA-J と MMSE はどう違いますか?
MMSE は認知症の有無の判定、MoCA-J はMCI 段階の拾い上げ に強みがあります。
MMSE:30点満点/23点以下 で認知症疑い、24〜27 が MCI 域目安
HDS-R:30点満点/20点以下で認知症疑い、21〜26 が MCI 領域
MoCA-J:30点満点/25/26点以下 で MCI 疑い(遂行・視空間・抽象思考まで評価)
当院では症例に応じて MoCA-J を中心に組み合わせて評価
家族の MCI が心配です。どんな生活介入が効果的ですか?
FINGER 試験では、運動・食事・認知トレーニング・血管リスク管理を組み合わせて全般認知機能が 25% 改善 と報告されています6 。単独より組み合わせるほど 効果が積み上がる、というのが共通の結論です。家庭でも 4
つの領域で押さえると進めやすくなります。
① 運動と認知活動
有酸素+レジスタンスを週 150
分 (散歩・軽いジョギング・体操)。読書・パズル・新しい趣味・会話など認知刺激 を日常に入れることで、認知予備能を底上げできます。
② 血管リスクの管理
高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動 のコントロールは、脳卒中再発予防そのものが進行抑制に直結します。SPRINT-MIND
試験では強化降圧で MCI 進行が 19% 抑制されました。
③ 感覚と社会的つながり
難聴は補聴器で補正 することで認知機能維持が報告されています11 。家族との会話・地域活動・趣味の場への参加など、社会的孤立を避ける 工夫も予防介入の一部です。
④ 生活習慣(禁煙・節酒・睡眠・うつ)
禁煙・節度ある飲酒・睡眠の質の確保 に加えて、うつ症状は早めに相談 を。MIND
食(地中海食 + DASH 食の修正)でも AD リスク 53% 減少が報告されています10 。
MCI で抗Aβ抗体療法(レカネマブ/ドナネマブ)は受けられますか?
対象は MCI due to AD / 軽度 AD で Aβ 病理が確認できる方 です。早期発見は当院、Aβ
病理確認と投与開始は認定施設 という連携で受けていただきます。「対象になるかどうかをまず知りたい」という方も当院でご相談いただけます。
① 当院で早期発見・スクリーニング
MMSE/MoCA-J + 頭部 MRI + ルーチン採血 で対象になりそうかを評価し、ARIA
リスクの説明を行ったうえで、必要に応じて学会認定の大病院へ紹介します。
② 認定施設で Aβ 病理確認と投与開始
紹介先でAβ PET / 髄液検査 / MRI
モニタリング を行い、適応が確認できれば投与を開始します。ARIA(脳浮腫・微小出血) のリスクは微小出血 4
個以上などで慎重判断となります。
③ 効果のイメージと共通条件
レカネマブ は認知機能の悪化スピードを約 27% 緩める 13 、ドナネマブ は日常生活能力の低下を約 35%
緩める 14 結果でした。進行を止めるのではなく進む時計をゆっくり回す 治療で、早期に始めるほど自立期間を延ばしやすくなります。
MCI と「年相応のもの忘れ」の違いは何ですか?
"年相応"はヒントで思い出せる・日常生活に支障がない レベル。MCI
は客観的に同年代より低下している レベルで、家族や検査で異常が拾えるかが分かれ目です。
年相応:人や物の名前が時々出にくい/本筋は覚えている
MCI:約束自体を忘れる/同じ話を繰り返すことが増える/MoCA-J 25/26 点以下
認知症:日常生活の自立性が損なわれる(買い物・服薬・金銭管理)
判断に迷う場合は客観評価(MoCA-J)と画像 で確認する価値があります
監修
院長 堤 健二(脳神経外科専門医・医学博士) 医師 芝原 友也(神経内科専門医・脳卒中専門医・認知症専門医・総合内科専門医・医学博士)
最終更新日
2026-05-07
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本ページは「軽度認知障害(MCI)」に関する一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や経過には個人差があります。数か月単位で急速に進行するもの忘れ・歩行障害を伴うもの忘れ・幻視やパーキンソニズムを伴うもの忘れは、慢性硬膜下血腫・特発性正常圧水頭症・レビー小体型認知症の前駆段階・自己免疫性脳炎など、評価を急ぐべき病態のサインのことがあります。「まだ
MCI だから」と先送りせず、原因評価と早期介入のためにご相談ください。