歩行障害
歩きにくい・つまずく・ふらつく — 「年のせい」にする前に
⚠ 突然の「歩けない」は脳卒中のサインかもしれません
EMERGENCY突然の歩行障害は救急ですまず確認 — あてはまれば、ためらわず119番
ゆっくり進む歩きにくさと違い、「突然」始まった歩行障害は、脳卒中(脳の血管が詰まる・破れる病気)のサインかもしれません。最初に次の項目をご確認ください。
突然のこんな症状は、ためらわず119番・救急要請を
- 突然、片足に力が入らない・立てない・歩けない
- ろれつが回らない・顔の片側がゆがむ・片腕が上がらない——脳卒中のサイン「FAST」2
- 突然の激しいめまいで、まっすぐ歩けない
- これまで経験したことのない激しい頭痛を伴う
「突然の症状があったけれど、そのままにしている」方へ。数日前・数週間前に突然の歩きにくさやしびれがあり、受診しないままになっている方は少なくありません。そのままにせず当院にご相談ください。
CHECKこんな歩き方の変化はありませんか?小さな変化が、原因を探す手がかりになります
急な変化がなくても、次のような「歩き方の変化」は受診のきっかけとして大切です。ご家族が気づくことも多い項目です。
こんなお悩みはありませんか?
- 歩幅が小さくなった・歩くのが遅くなったと言われる
- すり足になり、ちょっとした段差でつまずくことが増えた
- しばらく歩くと足がしびれて痛み、休むと楽になる
- 歩きにくさに加えて、もの忘れや尿の近さが出てきた
- 方向転換や振り向きのときにふらつく
- 最近、転ぶこと・転びそうになることが増えた
- 一歩目が出にくい(足が地面に張りついた感じがする)
- お薬を変えてから、ふらつくようになった
歩くという動作は、脳・背骨(脊髄)・手足の神経・筋肉・バランス感覚が連携して成り立つ、実はとても高度な運動です。だからこそ、どこの不調かによって歩き方の変化のパターンが変わり、それが原因を探す手がかりになります。
PATTERNS歩き方のパターンから原因を探る8つのパターンで、考えられる原因を振り分けます
下の表で、ご自身やご家族の歩き方に近いパターンをチェックしてみてください。気になる原因は、そのままくわしい病気のページに進めます。
複数あてはまることもよくあります——その場合も、受診時にそのままお伝えください。
| 歩き方・状況の特徴 | 考えられる原因 |
| ① 突然歩けなくなった・片足に力が入らない | 脳卒中(緊急)脳卒中 |
| ② 小刻み・すり足・前かがみで、一歩目が出にくい(すくみ足) | パーキンソン病パーキンソン病 |
| ③ 足を開いてすり足・方向転換が苦手。もの忘れ・尿の近さも | 正常圧水頭症(iNPH)治せるもの忘れ |
| ④ 歩くと足がしびれて痛み、休むと楽になる | 腰部脊柱管狭窄症首・腰のしびれ・脱力 |
| ⑤ 脚が突っ張るぎこちない歩き方。手のしびれ・ボタンがかけにくい | 頸椎症性脊髄症首・腰のしびれ・脱力 |
| ⑥ 足首が上がらずつまずく・足裏の感覚が鈍い | 末梢神経障害末梢神経のしびれ |
| ⑦ 酔ったようにふらつく・まっすぐ歩けない | 小脳・平衡感覚の障害めまい |
| ⑧ お薬を変えてから、ふらつく・転びやすくなった | 薬剤性(お薬の影響)下で解説 |
番号は説明のための通し番号で、緊急度の順ではありません(緊急なのは①です)。ここに挙げた以外の原因(関節の痛み・筋力低下・貧血など)もあります。
TREATABLE「年のせい」にしないでください治療で改善が期待できる歩行障害があります
歩きにくさの原因の中には、見つけさえすれば治療や調整で改善が期待できるものが含まれます。「年のせいだから」と受診をあきらめてしまうのが、いちばんもったいないパターンです。
正常圧水頭症(iNPH)
手術で改善の可能性
脳の水(髄液)がたまり、歩行を妨げる
足を開いたすり足に、もの忘れ・尿の近さが重なるタイプ。
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歩行障害・認知障害(もの忘れの症状)・排尿障害が三大症状。3つがすべてそろうとは限らず、最も多く、最初に出やすいのは歩行障害です1。
- 足を開いた小刻みなすり足・方向転換が苦手
- MRIで脳室(髄液のたまり)の拡大が手がかり
- 髄液を少し抜く検査で、歩行が変わるかを確認
- シャント手術(たまった髄液を細い管で逃がす手術。連携する専門機関で実施)で症状の改善が期待できる1
治せるもの忘れのページへ
パーキンソン病
薬で改善が期待
脳の信号(ドパミン)不足で動きが小さくなる
小刻み・すくみ足に、手のふるえや動作の遅さが重なるタイプ。
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小刻み・すくみ足の歩行は、不足しているドパミンをお薬で補うことで改善が期待できます。早く見つけるほど、生活の質を保ちやすくなります。
- 歩幅が小さくなる・腕の振りが減る
- 手のふるえ・動作の遅さを伴うことが多い
- お薬とリハビリで長く付き合っていける病気
パーキンソン病のページへ
慢性硬膜下血腫
手術で改善が期待
頭を軽くぶつけた数週間後に、じわじわ進む
頭をぶつけた数週間〜数か月後に、歩きにくさや反応のにぶさが出てきたタイプ。
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脳の表面にゆっくり血がたまる病気です。ぶつけたこと自体を覚えていないことも多く、「年のせい」と間違われやすい歩行障害の代表です。
- 頭をぶつけた数週間〜数か月後に出てくる
- 歩きにくさ・反応のにぶさ・もの忘れが混ざる
- CT・MRIで確認でき、手術(連携する専門機関で実施)で改善が期待できる
頭部外傷のページへ
お薬によるふらつき
調整で改善しうる
睡眠薬・抗不安薬などが原因のことも
お薬を変えた時期から、ふらつき・転びやすさが始まったタイプ。
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ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬は、筋肉のゆるみや眠気でふらつき・転倒の原因になることがあります。また、一部の胃薬・吐き気止め・こころのお薬は、パーキンソン病に似た小刻み歩行(薬剤性パーキンソニズム)の原因になることがあり、お薬の見直しで改善が期待できます。
- お薬を変えた時期と、ふらつきの始まりが近い
- 複数の医療機関からのお薬が重なっている
- 自己判断で中止せず、調整はご相談を
65歳以上の方の約3割(3人に1人)が1年に1回以上転倒しており4、骨折・転倒は介護が必要になる原因の上位に入ります5。歩きにくさの放置は転倒のリスクです。「転ぶ前に原因を調べる」ことが、何よりの転倒予防になります。
OUR CLINIC当院での調べ方脳か、背骨・神経か、バランスかを切り分けます
歩行障害の外来で脳神経の医師が担う役割は、「脳が原因か、背骨・神経が原因か、バランスの問題か」を切り分けることです。当院ではおおむね次の流れで調べます。
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問診
いつから・どんな場面で歩きにくいか、転ぶことが増えていないか、お薬の変更がなかったか(お薬手帳をご持参ください)、もの忘れや尿の症状まで、くわしく伺います。
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歩行の観察・神経診察
実際に歩いていただき、歩幅・すり足・方向転換・ふらつきを確認します。筋力・感覚・反射・バランスの診察で、原因の場所を絞り込みます。
-
MRI・CT検査MRIは約15分
脳梗塞の痕・脳室の拡大(正常圧水頭症の手がかり)・白質病変(脳の細い血管の変化)などを確認します。必要と判断すれば、可能な限り当日に実施します。
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必要に応じて血液検査など
ビタミン不足や甲状腺の不調など、歩行やふらつきに影響する内科的な原因もあわせて確認します。
-
結果のご説明・治療と連携当日
原因と方針をご説明し、治療を始めます。腰・首(背骨)が疑わしい場合は整形外科と連携して紹介し、正常圧水頭症の疑いが強い場合は検査・手術のできる専門機関へおつなぎします。
FAQよくある質問
Q. 「年のせい」の歩きにくさと、病気による歩きにくさは、どう見分けますか?
加齢だけでも歩く速さは少しずつゆっくりになりますが、「パターンのある変化」や「急な変化」は病気のサインです。
- 数週〜数か月の単位で急に悪くなった・転ぶことが増えた
- すくみ足・足を開いたすり足・突っ張った歩き方など、特徴的なパターンがある
- もの忘れ・尿の近さ・しびれ・ふるえなど、歩行以外の症状を伴う
迷ったら、「年のせいかどうかを確かめるため」の受診で構いません。調べて異常がなければ、それも大きな安心材料になります。
Q. 歩くと足がしびれて痛み、休むと楽になります。腰と血管、どちらが原因ですか?
どちらも「歩くと悪化し、休むと楽になる」症状を起こしますが、楽になる姿勢に違いがあります3。
- 腰(脊柱管狭窄症):前かがみ・座る・自転車で楽になる。立ったままでは回復しにくい
- 血管(足の動脈の詰まり):姿勢に関係なく立ち止まるだけで回復する。ふくらはぎの痛みが中心で、足の冷たさを伴うことがある
血管が原因の場合は、血管の治療ができる診療科への受診が必要です。どちらか迷う場合も、まずご相談ください。
Q. 整形外科と脳神経外科、どちらを受診すればよいですか?
迷ったら、どちらから受診しても構いません。歩きにくさの原因は、脳のこともあれば、腰・首(背骨)や関節のこともあるためです。
当院では脳が原因かどうかをMRI・CTで先に確認でき、腰・首(背骨)が原因と分かれば整形外科へ責任を持っておつなぎします。「まず脳から調べたい」という受診も歓迎です。
Q. MRIで何がわかりますか?
歩行障害の「脳の原因」を、一度の検査でまとめて確認できます。
- 脳梗塞(自覚のない隠れ脳梗塞を含む)や脳出血の痕
- 脳室の拡大——正常圧水頭症(iNPH)の手がかり
- 白質病変(脳の細い血管の変化)や脳の萎縮の程度
首・腰(背骨)のMRIが必要と判断した場合は、整形外科・連携医療機関へご紹介します。
Q. 杖を使ったり、運動を続けたりしてもいいですか?
続けてください。ただし「原因を調べてから、安全なやり方で」が原則です。
- 杖・手すり・段差の解消などの環境整備は、転倒予防につながります4
- ウォーキングや体操は、筋力とバランスの維持に役立ちます
- 歩くと痛み・しびれが強く出る場合は無理をせず、運動の内容をご相談ください
Q. 一時的に歩けなくなりましたが、もう治りました。受診すべきですか?
はい、早めの受診をおすすめします。数分〜数十分で治る片足の脱力・歩きにくさは、一過性脳虚血発作(TIA=脳梗塞の前触れ発作)の可能性があります。
TIAのあとは脳梗塞を起こしやすい時期がしばらく続くため、「治ったから大丈夫」ではなく「前触れが出たから調べる」が正解です。くわしくは一過性脳虚血発作(TIA)のページをご覧ください。
Q. 家族の歩き方が気になります。受診前にできる準備はありますか?
次の3つをご用意いただくと、診察がぐっとスムーズになります。
- スマートフォンで、歩く様子を短い動画に撮って持参する
- お薬手帳を持参する(市販薬・サプリメントもあれば一緒に)
- いつから・どんな場面で歩きにくいかを、簡単に書き留めておく