脳梗塞・心筋梗塞のない人に、「血液サラサラ」のアスピリンは必要?健康な高齢者2万人をおよそ9年追いかけた研究が示した、効果と出血のバランス
コラムテーマ:予防・治療(薬物)
この記事の結論
心臓や脳の病気をまだ起こしていない方では、予防のためにアスピリンを長く飲み続けても、心筋梗塞や脳梗塞は減りませんでした。増えたのは出血だけでした。
こんな方に読んでいただきたい記事です
- 脳梗塞や心筋梗塞になったことはないが、予防のアスピリン(血液サラサラの薬)が自分に必要なのか気になっている
- 家族が脳梗塞で倒れ、自分も「血液サラサラの薬」を飲んだほうがいいのか気になっている
- 健診で血圧やコレステロールを指摘され、何から始めればよいか知りたい
「血液をサラサラにする薬」として知られるアスピリン。健康診断のあとや、ご家族が脳梗塞で倒れたあとに、「自分も予防のために飲んだほうがいいのでしょうか」とご相談を受けることがあります。
2025年、この問いに答える研究結果が発表されました1。心臓や脳の病気をまだ起こしていない高齢者19,114人を、およそ9年にわたって追いかけた研究です。
TWO TYPES「予防」には2種類あり、意味がまったく違います病気を経験しているかどうかで、飲む価値が変わります
| どんな方か | アスピリンの位置づけ |
まだ起こして いない方 | この記事の対象 近年は「始めることをすすめない」方向 |
| すでに起こした方(冒頭の注意にあてはまる方) | 再発を防ぐ効果がはっきりしており、続けることが大切6 |
実は日本では、まだ病気を起こしていない方が予防目的で飲むことは、国が認めているこの薬の使い道には入っていません7。認められているのは、心筋梗塞・狭心症・脳梗塞などをすでに起こした方や、心臓の血管の手術を受けた方に対する使い方です。
FINDINGS2万人を追いかけた研究でわかったこと心臓・脳の病気は減らず、出血が増えました
オーストラリアとアメリカで行われた研究の、その後の追跡結果です12。
| 項目 | 内容 |
| どんな人? | - 原則70歳以上
- 19,114人
- 心臓や脳の血管の病気・認知症なし
- 自立して生活している
|
| 何をした? | くじ引きで2つのグループに分け、見た目が同じ効き目のない薬と比較 アスピリン群効き目のない薬の群 |
| 飲んだ量 | 1日100mg |
| 期間 | 試験が約4.7年、その後の追跡が約4.3年(合わせておよそ9年) |
結果(試験開始からの全期間)
アスピリンのグループと、効き目のない薬のグループを比べた結果です。
| 調べたこと | 結果 |
| 心筋梗塞・脳梗塞 | 差なし |
| 大きな出血 | アスピリン群で増えた |
| 胃や腸からの出血 | アスピリン群で増えた |
| 頭の中の出血 | はっきりした増加はなし |
| 亡くなった方の割合 | 差なし |
数で見ると、1年間に1000人あたり——
- 心筋梗塞や脳梗塞などが起きた方は、アスピリン群も効き目のない薬の群もおよそ10人で、ほとんど同じ
- 大きな出血を起こした方は、効き目のない薬の群がおよそ7人、アスピリン群がおよそ9人
つまり、得るものはほぼなく、出血だけが上乗せされるという結果でした1。1年でみれば1000人に2人ほどの差ですが、飲み続ける年数だけ積み重なっていきます。
もう少し詳しく知りたい方へ(読み飛ばして構いません)
試験を行っていた4.7年の間だけを見ると、心筋梗塞や脳梗塞はアスピリンを飲んだ方でやや少ない傾向がありました。ところが試験が終わってアスピリンをやめたあとの期間では、逆にやや多くなり、結果として全期間を通してみると差がなくなりました1。
なぜそうなったのかについて、研究者は「薬をやめたことで一時的に血が固まりやすくなった可能性」「アスピリンは病気を防いだのではなく先送りしていただけの可能性」などを挙げていますが、どれも推測の段階で、確定した事実ではないと論文の中ではっきり述べています1。
いずれにせよ、これはアスピリンを飲んでいた方に起きた話です。もともと飲んでいない方が心配する必要はありません。
GLOBAL海外でも、日本でも上乗せの効果は示されていません
| どこ | 何がわかっているか |
| アメリカ | 2022年、アメリカの公的な専門家会議が「60歳以上の方が予防目的でアスピリンを新しく飲み始めることはすすめない」と発表しました3 |
| 日本 | 高血圧・コレステロールの異常・糖尿病のいずれかがある60〜85歳 14,464人を調べた研究でも、心筋梗塞・脳卒中・心血管死をまとめて数えた結果に差はなく、輸血や入院が必要な出血は増えていました4 |
TODAYアスピリンの代わりに、今日からできること根拠が確立している4つ
脳梗塞や心筋梗塞を遠ざける方法として根拠が確立しているのは、地味ですが次の4つです。薬を1錠足すことよりも、こちらのほうが確かだと考えられています。
| やること | 目安 |
家庭で 血圧を測る |
- 朝は起きて1時間以内、トイレのあと、薬と朝食の前
- 晩は寝る前
- 二の腕で、1〜2分座って落ち着いてから
- 1日だけの値で判断せず、5日〜1週間の平均で見る
平均が 135/85 mmHg を超えるようなら相談を
|
| 歩く |
- 1日20〜30分、少し息がはずむ速さで
- 週に合計150分ほどを目標に
胸の痛みや締めつけ、強い息切れ、ふくらはぎの痛みで歩けなくなるときは、続けずに受診してください
|
たばこを やめる | 本数を減らすより、やめることに意味があります |
コレステロール・ 血糖を確認する | 健診の結果を持って受診を。数値により治療が必要な場合があります |
くわしくは生活習慣病と脳の関係・高血圧・脂質異常症のページをご覧ください。
FAQよくある質問
Q. 今アスピリンを飲んでいます。やめたほうがよいですか?
ご自身の判断でやめないでください。どうすべきかは、飲んでいる理由によって正反対になります。
- 脳梗塞・心筋梗塞などを起こした後や、血管の手術のあとに飲んでいる方:続けることが大切な薬です6。長く続けている方が自分の判断で中止すると、心筋梗塞や脳梗塞が増えることが報告されています5
- そうした病気がなく、予防のために飲んでいる方:この記事の研究をふまえると、やめるという選択肢も含めて主治医と相談する価値があります
いずれの場合も、次の受診時にお薬手帳を持参して、処方した医師にご相談ください。
Q. 自分が飲んでいるのがアスピリンかどうか、どうすればわかりますか?
お薬手帳や薬の説明書で確認できます。「血液をサラサラにする薬」と説明される薬にはいくつも種類があり、心房細動(脈が乱れる不整脈)に使う薬などはアスピリンとは別のものです。この記事はアスピリンだけの話ですので、ご自身の薬がどれかは、お薬手帳を持って医師・薬剤師にお尋ねください。
Q. 家族が脳梗塞になりました。予防のために飲み始めるべきですか?
ご家族が発症されたことは、ご自身がアスピリンを始める理由にはなりません。今回の研究を含め、病気の経験がない方が飲み始める利点は乏しいと考えられています13。市販の薬を自己判断で予防目的に飲み始めることも、おすすめできません。まずは血圧・コレステロール・血糖の確認をおすすめします。
Q. 少ない量なら安全ではないのですか?
今回の研究で使われたのは1日100mgという少ない量で、しかも胃で溶けないようコーティングした錠剤です12。それでも出血は増えていました。量や薬の形の工夫で出血を避けられるわけではありません。
Q. 出血しやすくなるのは、どんな人ですか?
胃や十二指腸に潰瘍ができたことがある方、市販のものを含む痛み止めを日常的に飲んでいる方、ほかにも血液をサラサラにする薬を飲んでいる方では、出血の危険が高まります。市販の痛み止めを常用している場合は、必ず医師・薬剤師にお伝えください。
Q. 出血には、どうすれば気づけますか?
次のようなことがあれば受診してください。
- 黒くてねばつく便、赤い血の混じった便、吐血
- 血尿
- 切り傷などの出血がいつまでも止まらない
- 思い当たる原因のない立ちくらみ・ふらつき・息切れ(貧血のサイン)
- 頭を打ったあと:そのときは何ともなくても、数日から数週間たってから、頭痛・なんとなくぼんやりする・歩きにくい・手足が動かしにくいといった変化が出ることがあります。血液をサラサラにする薬を飲んでいる方では特に注意が必要で、このような変化があればすぐに受診してください
GUIDE受診の目安
そのほか、次のような場合はご相談ください
- 黒い便が出た、出血が止まりにくいなど、出血が疑われるとき(→ 上のよくある質問もご覧ください)
- 健診で血圧・コレステロール・血糖の異常を指摘された
- アスピリンを飲むべきか迷っている、あるいは自己判断で飲み始めている
OUR CLINIC当院でできること
つつみ脳神経外科クリニックでは、必要に応じて脳と首の血管の状態を調べる検査を行っています。
- 血圧・コレステロール・血糖の管理(生活習慣病の診療)
- 頭部MRI・MRA(脳と脳の血管を調べる検査)ご予約をおすすめしていますが、空きがあれば受診したその日に受けていただけます。検査そのものは10〜15分ほどです
- 頸動脈エコー(首の血管を超音波で調べる検査)
- お薬についてのご相談(お薬手帳をお持ちください)
これらは薬を出すための検査ではなく、ご自身の血管の状態を知り、必要な対策を選ぶための検査です。お薬について気になることがあれば、お薬手帳を持ってご相談ください。