認知症になる人は減ってきている?——同じ町を37年追った日本の研究でわかったこと
コラムテーマ:予防・生活指導
この記事の結論
減ってきていました。福岡県久山町で37年間追い続けた調査では、認知症のある方の割合が2012年をピークに減り始めていました。
ただし、日本で認知症のある方の「人数」は、今後も増えていく見込みです。減ったのは「割合」のほうです。
こんな方に読んでいただきたい記事です
- 「認知症はこれから増える一方」と聞いて、気が重くなっている方
- ご家族に認知症の方がいて、自分もそうなるのだろうかと不安な方
- 血圧や血糖の管理が、脳の健康にどうつながるのかを知りたい方
「認知症はこれから増える一方だ」——そう聞いたことのある方は多いと思います。実際、日本で認知症のある方の人数は、今後も増えていく見込みです。
ところが2025年12月、そのイメージとは逆向きの結果が報告されました。福岡県久山町で65歳以上の住民を37年間追い続けた調査で、認知症のある方の割合が2012年をピークに減り始めていたというのです1。
久山町は、町ぐるみで住民の健康を60年以上調べてきた町です。年齢構成や食事の内容が全国平均に近く、国が「日本に認知症の方が何人いるか」を推計するときの基礎データにも使われています2。
何が起きたのか、そして「減った」という言葉をどう受け止めればよいのかを、順に見ていきます。
FINDINGSこの研究でわかったこと早見表でつかむ研究の要点
| 項目 | 内容 |
| 調べたこと | 認知症のある方の割合が、37年間でどう変わったか |
| 対象 | 福岡県久山町の65歳以上の住民。1985年から2022年まで7回の調査 |
| 認知症の割合 |
1985年6.7%
2012年17.9%増加
2022年12.1%減少
|
| 新たに発症する方 | 2012年から追いはじめたグループでは、10年前のグループの0.60倍(およそ4割減) |
長く増え続けた数字が減少に転じたことが、今回の新しい発見です。
もう少し詳しく知りたい方へ(読み飛ばして構いません)
1
減ったのは「新しく認知症になる方」です
「有病率」はいま認知症のある方の割合、「発症率」は新しく認知症になる方の割合です。今回の「割合が減った」の中心は、新しく発症する方が減ったことです。
2
高齢化のせいで下がったのではありません
「高齢者が増えているのに割合が減るのはおかしい」と思われるかもしれません。この研究では同じ年齢どうしで比べ直しても、やはりはっきりと下がっていました1。
3
久山町の数字は、そのまま日本全体の数字ではありません
全国を映す鏡として使われてきた町ですが、それでも1つの町の結果です。
WHYなぜ減ったと考えられているのか
研究チームは、この町で起きていた次のような変化を挙げています1。
| 久山町で起きていたこと | どう変わったか |
| 上の血圧(収縮期血圧) | 下がった |
| 血圧の薬を使う方 | 増えた |
| 脳卒中を起こしたことのある方 | 減った |
| 運動する習慣のある方 | 近年は増えた |
| 喫煙する方 | もともと少なく、さらに減った |
| 糖尿病のある方 | 増えた(近年は横ばい。ただし血糖の管理状況は良くなっていた) |
背景には、1980年代から続く減塩の呼びかけ、健康診断の普及、2008年から始まったメタボリックシンドローム対策、そして久山町では保健師による継続的な保健指導がありました。同じような変化は、欧米でも先に報告されています45。
ただし、これは見守って記録するタイプの調査(観察研究)であり、原因と結果を証明したものではありません。研究チーム自身も「関係している可能性がある」という慎重な書き方をしています。
なお、認知症には生活習慣で説明できない部分も数多くあり、ご本人やご家族の責任を問う話ではありません。
PERSPECTIVE誤解されやすい3つのこと
1. 割合は下がっても、人数は増えます
国の推計では、認知症の高齢者数は2022年の443.2万人から、2040年には584.2万人へ増える見込みです2。高齢者の人口そのものが増えるためです。
2. 軽度認知障害まで含めると、まだ減ってはいません
今回の研究とは別に実施された日本全体の調査では、認知症と軽度認知障害(MCI=認知症の一歩手前で、もの忘れはあっても日常生活はご自分でできる状態)を合わせた割合は約28%で、減ったのは認知症の部分でした3。なお、MCIの方が全員認知症へ進むわけではなく、元の状態に戻る方もいらっしゃいます。
3.「ならなくなった」わけではありません
長生きをすれば、いずれ発症する方は依然として多くいらっしゃいます。今回の研究でも、発症する年齢は10年前のグループより1歳ほど遅い程度でした。
それでも、発症が1年でも遅くなることには意味があります。ご本人が元気に過ごせる時間が延び、ご家族の暮らしも変わります。
TODAY今日からできること
- 家庭で血圧を測って、記録する——朝と晩、決まった時間に測って手帳に残しましょう
- 健康診断を毎年受ける——血圧・血糖・脂質の変化は、自覚症状より先に数字に表れます
- 聞こえにくさ・見えにくさを放置せず、相談する——難聴や視力の低下もリスクとして挙げられています。どのリスクにどう取り組むかは「認知症のリスクは下げられる?」で詳しく整理しています
血圧の目標とする数値はお一人おひとり異なります。まずは血圧手帳を持って、一度ご相談にいらしてください。
FAQよくある質問
Q. 認知症は予防できるようになったのですか?
「確実に防げる」という段階ではありません。ただし、リスクを下げたり発症を遅らせたりできる可能性は、複数の研究から示されています。世界保健機関(WHO)は2026年の指針で、自分で手を入れられる要因が認知症のリスクの4割強(最大45%)に関わっているとしています8。とくに中年期(おおむね45〜65歳)の血圧や生活習慣が、その後の認知機能に関係することが知られています9。高齢になってからの取り組みにも意味があるとされており、「もう遅い」という年齢はありません。
Q. 親が認知症でした。自分も必ずなりますか?
必ずということはありません。ご家族に認知症の方がいる場合、そうでない場合よりリスクは高くなることが知られていますが、それだけで決まるものではありません。血圧・血糖・聞こえ・運動習慣など、ご自身で手を入れられる部分も多くあります。なお、65歳より若い年齢での発症がご家系に複数みられる場合は、一度ご相談ください。診察で経過やご家族の状況をうかがい、必要と判断したときは専門機関と連携して進めます。もちろん、そうでない方のご相談も歓迎します。
Q. 血圧を下げれば、認知症にならずにすみますか?
そこまでは言えません。血圧を下げる取り組みで認知症が減ったことを示した試験がある一方6、別の大規模試験では認知症そのものにはっきりした差は出ず、その手前の軽度認知障害では減少がみられた、という結果でした7。結果は一致しておらず、血圧の管理は「リスクを下げうる有力な手段のひとつ」という位置づけです。なお、認知症を防ぐ効果が承認されている薬があるわけではありません。お薬の量や目標値はお一人おひとり異なりますので、自己判断で減らしたり中止したりせず、必ず主治医にご相談ください。
Q. もの忘れが増えてきました。受診したほうがよいでしょうか?
気になった時点でご相談いただいて構いません。もの忘れの原因には、治療によって改善するものも含まれます。早い段階でわかるほど、選べる手立ては多くなります。
GUIDE受診の目安
あてはまる段階からご覧ください。多くの方は、いちばん下にあてはまります。
すぐにご受診ください
- 数週間から数か月のうちに、急にもの忘れや性格の変化が進んだ
- 頭を打ったあと(数週間〜数か月後を含む)に、もの忘れや歩きにくさが出てきた
- 歩き方がふらつく・小刻みになるのと同時に、尿がもれるようになった
- 脱水や感染、便秘、入院や手術のあとに、数時間〜数日で急に混乱が出た
- 薬を新しく始めた、または量が変わったあとに、もの忘れや混乱が出てきた——お薬は自己判断でやめず、お薬手帳かお薬そのものを持ってご相談ください(急にやめること自体が危険なお薬もあります)
早めのご受診をおすすめします
- 慣れた道で迷った、日付や場所がわからなくなった
- 意欲が落ちて、趣味や外出をやめてしまった
- 薬の飲み忘れが増え、管理が難しくなってきた
気になったらご相談ください
- 同じことを何度も尋ねる、約束を忘れることが増えた
- 物の置き忘れ・しまい忘れが目立つようになった
- ご家族から「以前と変わった」と言われた
- 血圧が高いまま、しばらく受診していない
OUR CLINIC当院でできること
- もの忘れの評価——認知機能の検査と、MRIによる脳の画像評価を行います
- 治療で改善する原因の確認——脳に水がたまる正常圧水頭症、頭の中に血だまりができる慢性硬膜下血腫、甲状腺やビタミンの問題など、治せる原因がないかを確かめます
- 生活習慣病の管理——高血圧・糖尿病・脂質異常症の診療を行っています
- ご家族へのご説明——ご本人だけでなく、ご家族のご相談にも応じます
診断のあとの通院も、当院で続けていただけます。必要に応じて認知症疾患医療センターなどの専門機関とも連携しています。気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。