軽度認知障害(MCI)と言われたら、もう元には戻らない?——久山町で5年追った研究から

コラム

診察室で、医師が高齢の男性とご家族に検査結果の紙を指しながら説明しているイラスト。大きな見出しで「MCIと言われたら もう戻らない? 久山町 5年の記録」、数字で「3人に1人」と書かれ、血圧計とお薬手帳・カレンダー・大きな数字「75歳」の3つの円形カットにそれぞれ「血圧」「次の予約」「年齢」のラベルが付いている

この記事の結論

久山町の調査では、軽度認知障害(MCI)と診断された方の31%が、5年後に正常な認知機能へ戻っていました。75歳未満では半数を超えます。戻ったあとにまた下がる方もいるので、半年〜1年ごとに同じ検査で見ておくことが大切です。

根拠にした研究BMC Geriatrics 2025/久山町研究——軽度認知障害と診断された380人を、5年後まで追いかけた調査です1

こんな方に読んでいただきたい記事です

  • 健診やもの忘れ外来で「いまは様子を見ましょう」と言われたまま、次にどうすればよいか決まっていない
  • 家族のもの忘れが増えてきて、この先どうなるのかが分からず不安
  • 血圧や血糖の薬を飲んでいて、それが頭の働きに関係するのか知りたい

福岡県久山町では、65歳以上の住民のほぼ全員を対象にした認知症の調査が1985年から繰り返されています(この町の37年分のデータは認知症になる人は減ってきている?で紹介しました)。

この調査から「軽度認知障害(MCI)と診断された人が、その後どうなったか」を追いかけた研究が発表されました1。日本の地域で暮らす高齢者を、実際に5年・10年と追いかけた数字です。

FINDINGS5年後、3人に1人は正常に戻った

軽度認知障害と診断された380人を、5年後まで追いかけた記録です。

調査を受けた時点の年齢で分けると、差ははっきりしています。

年齢(調査時)正常に戻った認知症に進んだ
75歳未満(123人) 51% 15%
75歳以上(257人) 22% 34%

75歳未満では半数を超える方が正常に戻っていました。一方、75歳以上では5人に1人ほどです。

全体ではどうだったか

380人分をまとめると、次のようになります。

380人を10人に置きかえると

実際の割合(正常31%・軽度認知障害のまま27%・認知症28%・死亡14%)を、10人あたりに直した目安です。

戻る人と、進む人が、ほぼ同じくらいいます。「軽度認知障害=認知症の予備軍」という一方向のイメージとは、実際の数字はかなり違います。

もう少し詳しく知りたい方へ(数字の幅と、この研究の限界の話です)

「380人」の内訳

2012〜2013年と2017〜2018年の調査で軽度認知障害と診断され、5年後の状況(受診の記録、またはご存命かどうか)まで確認できた方の合計です。

当院のMCIのページに載せている「38%」との違い

当院の軽度認知障害(MCI)のページでは、米国メイヨー・クリニックの地域研究をもとに「38%が正常に戻る」という数字を紹介しています2。今回の数字と食い違って見えますが、別々の集団を、別々の期間、別のやり方で追いかけた数字です。どちらかが誤りということではありません。日本にお住まいで、いまの年齢が分かっている方には、久山町の年齢別の数字のほうが近いと考えてください。

この記事の数字についている幅(信頼区間)について

本文では読みやすさのため割合だけを載せましたが、実際の論文にはそれぞれ幅がついています(たとえば31%は27〜36%)。人数が少ないほど、この幅は広くなります。幅が広い数字は、まだ値が定まっていないというサインです。

この研究の限界

  • 日本の1つの町での調査であること
  • 人数が比較的少ないこと
  • 測っていない要因が影響している可能性があること
  • 同じ検査をくり返すことで点数が上がる「慣れ」の影響を完全には否定できないこと
  • 追跡できなかった方に、認知症や死亡のリスクが高い方が多かった可能性があること
  • 頭部MRIを受けられなかった方が解析から外れており、その方々には全体として認知症や死亡のリスクが高めの方が多かったこと

TODAY今日からできること

この研究で「正常に戻りやすかった」方の特徴から、いまの生活で続けられることは3つあります。どれも新しく始めることではなく、いま続けていることをやめないための一手です。

作戦1

血圧と血糖を、いまのまま続ける

  • 正常に戻った方に多く見られた特徴は、上の血圧が低いこと糖尿病がないことの2つでした。
  • 頭部MRIの画像からも、同じことが分かりました。脳の萎縮(脳がやせて小さくなること)細い血管の変化(白質病変)が少ない方ほど、戻りやすい結果でした。
今日の一手

朝、起きて1時間以内に血圧を測って、数字を書き留めてください。1回でも構いません。

細い血管の変化は、年齢とともに誰にでもある程度は現れます。

作戦2

身のまわりのことを、自分でやり続ける

  • 買い物お金の管理ひとりでの外出読書といった少し手間のかかることを日ごろから続けている方ほど、正常に戻る割合が高くなっていました。
  • 握力が強い方ほど戻りやすい、という結果も同じ研究で出ています。
今日の一手

いま自分でできていることを1つ選んで、これからも自分で続けると決めてください。ご家族は、その1つを手伝わずに見守ってください。

外出や運転を続けるかは、主治医にご相談ください。

作戦3

同じ検査を、半年〜1年ごとに受ける

  • 検査の点数が高い方ほど戻りやすい結果でした。ただし、大事なのは1回の点数よりも、毎回同じ検査で変化を見ることです。
  • 軽度認知障害は、良くなることも悪くなることもある状態です。1回の判定で先を決めつける必要はありません。
今日の一手

前回、認知機能の検査を受けたのはいつでしたか。すぐに思い出せない方は、それが受診の合図です。

「半年〜1年ごと」は当院の目安です(研究の調査間隔は5年)。

これらは「正常に戻った方に多かった特徴」であって、条件ではありません。当てはまらないから戻らない、ということではありません。

血圧と認知症の関係は血圧を下げると認知症は減らせる?で詳しく整理しています。

PERSPECTIVE「戻った」は、終わりではない

戻ったあとの5年間

10年追えた171人のうち、最初の5年で正常に戻った52人を、さらに5年追いかけた結果です。人数がぐっと減るので、幅のある数字として見てください。

さらに5年後人数(52人中)
正常のままだった25人(48%)
ふたたび軽度認知障害と判定された17人(33%)
認知症に進んだ3人(6%)

このほか、5年の間に亡くなった方が7人(13%)いらっしゃいます。

良い状態が必ず続くわけではありません。52人のうち17人は、5年のうちにふたたび軽度認知障害と判定されました。米国メイヨー・クリニックの地域研究でも、同じ傾向が出ています。正常に戻った方は、一度も軽度認知障害になったことのない方より、ふたたび軽度認知障害や認知症になりやすいという結果でした2

10年後、「正常」は31%→18%

2012〜2013年に軽度認知障害と診断された171人を、10年追いかけた結果です。5年後には31%だった「正常」が、10年後には18%になります。

10年後の状態割合(171人中)
正常な認知機能に戻った18%
軽度認知障害のまま15%
認知症に進んだ25%

このほか、10年の間に亡くなった方が42%いらっしゃいます。もともと年齢の高い方が多い集団です。

戻ったあとこそ、同じ検査で

正常に戻っても、それで終わりではありません。ここでいう「正常に戻った」は、検査の点数が、心配のいらないところまで戻ったという意味です。脳そのものが元どおりになったかどうかまでは、この研究では調べていません。

だからこそ、戻ったあとも半年〜1年ごとに見ておく意味があります。 良い時期のうちに次の受診を決めておくのが、いちばん現実的です。

GUIDEこんなときは一度ご相談ください

ご相談の目安
  • 「軽度認知障害」「様子を見ましょう」と言われたまま、次にいつ見てもらうかが決まっていない
  • 診断を受けてから、1年以上どこにも通っていない
  • 血圧・血糖・コレステロールの薬が途中でやめたままになっている
  • 買い物・お金の管理・外出など、半年前にできていたことができなくなってきた
  • ご本人よりご家族のほうが心配している

ご本人おひとりでも、ご家族とご一緒でも構いません。

受診されたときの進め方

  1. いまの状態を測る — 認知機能の検査を行い、いまの位置を確かめます
  2. 頭の働きを下げている別の原因がないかを調べる
    • 飲んでいる薬の見直し
    • 血液の検査(甲状腺やビタミンなど)
    • 気分の落ち込み・睡眠・聞こえの確認
    • 頭部MRI(脳の萎縮・細い血管の変化・頭の中の出血や水のたまり)

    薬の影響や甲状腺の状態など、治せる原因が見つかることがあります

  3. 見る間隔を決める — 半年ごとか1年ごとかを決め、毎回同じ検査で変化を追っていきます

早い段階のほうが、調べられることや対応の幅が広いこともあります。詳しくは軽度認知障害(MCI)のページをご覧ください。

受診のときにお持ちください
  • お薬手帳(いま飲んでいる薬が頭の働きに影響していないかを確認できます)
  • 健診の結果(数年分あると、変化の向きが分かります)
  • ご家族から見て「変わった」と思う出来事のメモ(日付つき)

これらがあれば、初回の診察が進めやすくなります。

FAQよくあるご質問

Q. 軽度認知障害(MCI)とは、どういう状態ですか?

もの忘れなどの認知機能の低下が検査で確かめられるものの、身のまわりのことはご自身でできている状態を指します(買い物やお金の管理など、手間のかかることに時間がかかるようになることはあります)。認知症は「認知機能の低下によって、生活に支障が出ている」状態なので、ここが分かれ目です。

分類や検査の詳しい話は軽度認知障害(MCI)のページにまとめています。

Q. 受診にはどのくらい時間がかかりますか? 予約は必要ですか?

問診・認知機能の検査・頭部MRIまで含めて、60〜90分ほどをみておいてください。これらは初診の当日に一通り行いますので、別の日に出直していただく必要はありません。

ご予約なしでも受診いただけます(お電話やWEBからのご予約もできます)。初診の当日に、診断と今後の方針までお伝えできることが多いですが、検査の内容によっては結果のご説明が後日になることがあります。

Q. 費用はどのくらいかかりますか?

保険診療の範囲内です。実際にお支払いいただく金額は、加入されている保険や年齢によって変わります。気になる場合は 0942-42-1155 までお問い合わせください。

Q. 他院で受けた検査の結果は使えますか?

使えます。結果の用紙や画像のディスクをお持ちください。同じ検査を続けて比べられるほうが、変化の向きが分かりやすくなります。

Q. 「戻る」というのは、治ったということですか?

検査の点数が心配のいらないところまで戻った、という意味です。戻ったあとも定期的に見ていくことをおすすめします。

Q. 75歳を過ぎていると、もう戻らないのでしょうか?

75歳以上でも5年で22%の方が正常に戻っていました。75歳未満(51%)より低いのは事実ですが、ゼロではありません。

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