脳出血を繰り返さないために、血圧はどこまで下げる?——4つの試験の2944人分をまとめた解析から

コラム

明るい自宅の食卓で、水色のシャツを着た60代くらいの男性が右腕に上腕式血圧計のカフを巻いて血圧を測っているイラスト。手前に記録用の開いたノートとペンが置かれている。右上の円形のカットでは、白衣の医師と同じ男性が診察室のテーブル越しに穏やかに向かい合って話している。大きな見出しで「脳出血を」「繰り返さないために」「血圧はどこまで?」、カードのラベルとして「130/80未満」「毎日はかる」「続ける」が置かれている

この記事の結論

脳出血のあとは、血圧を診察室で130/80未満(家庭では125/75未満)に保ち続けると、脳卒中、とくに脳出血の再発が減ります。

すでに上が130まで下がっている方も、さらに下げたほうが再発は少なくなっていました。

根拠にした研究Lancet Neurology 2026/RECAP-ICH——降圧の臨床試験4本から、脳出血をした2944人分を取り出してまとめた解析です1。

こんな方に読んでいただきたい記事です

  • 脳出血で入院し、退院してから血圧の薬をのんでいる
  • 家族が脳出血で入院し、退院後の血圧をどこまで下げればよいのか分からない
  • 診察室で測る上の血圧が130前後まで下がって、これ以上下げる必要があるのか迷っている

脳出血を起こした方は、そのあとも脳卒中や心筋梗塞などを起こしやすい状態が続きます。血圧を下げることが再発予防の柱であることは、以前から知られていました。

しかし、次の3つははっきりしていませんでした。

この3つに答えた解析が発表されました1。

FINDINGS130/80未満まで下げ、そのまま続ける

4つの臨床試験に参加した2944人を、中央値(真ん中の値)で42か月(3年半)追いかけた結果です1。

追跡のあいだしっかり下げた
グループ
1487人
比較の
グループ
1457人
上の血圧(平均)127mmHg138mmHg
脳卒中の再発6.5%10.4%
うち脳出血の再発2.2%5.6%

4つの棒は、同じものさしで比べています。

比較のグループも、血圧の薬はのんでいます。ちがうのは下げる目標だけです1。つまりこの記事の話は「薬をのむかどうか」ではなく、「どこまで下げるか」です。

すでに130まで下がっている方は、それ以上下げる意味があるのか

この研究が根拠にしているガイドライン(米国心臓協会・米国脳卒中協会 2022年)は、脳出血のあとの目標を130/80未満としています2。この数字は診察室で測った値で、家庭で測るときは125/75未満が目安です3。

では、すでにそこまで下がっている人はどうでしょうか。試験に入った時点で上の血圧が130以下だった200人(試験で測った血圧です。家庭で測った値ではありません)だけを取り出すと、次のようになりました1。

参加時に上の血圧が130以下だった方脳卒中の
再発
しっかり下げたグループ(99人)5%
(5人)
比較のグループ(101人)14%
(14人)

この結果からは、すでに下がっている方でも、さらに下げたほうが再発は少なくなっていたと読めます。ただし200人と人数が少なく、この数字はぶれやすいものです。

効果が出るまでは、思ったより短い

待つ期間は長くありません。1000人が治療を続けると、はじめの6.1か月で10人の再発を防ぐ計算になります1。

血圧の治療を長く続けるほど、防げる再発は増えます

1000人が血圧を下げる治療を続けたときに、防げた脳卒中の再発の人数

上にいくほど、防げた人数が多い

16人 28人 38人 47人 55人 1年 2年 3年 4年 5年 血圧を下げる治療を続けた期間

参考文献1のデータをもとに作成しました。1000人が治療を続けたときに防げる脳卒中の再発の人数(推定)です。

もう少し詳しく知りたい方へ(読み飛ばして構いません)

まとめられた4つの試験

ESPRIT・PROGRESS・RESPECT・TRIDENT の4本です。上の血圧の目標を決めて下げる方法をとった試験が2本、決まった量の薬を足す方法をとった試験が2本で、いずれも質の高い試験と評価されています1。4本のうち、脳出血をした方だけを対象に行われたのは1本(TRIDENT)で、残る3本は脳卒中などの試験から脳出血をした方を取り出しています1。比較のグループは、上を140未満などのゆるやかな目標にするか、追加の薬のかわりに偽薬(有効成分の入っていない薬)を足すかでした1。

どんな方が参加していたか

人種ではアジアの方が75.3%を占めました。登録した国で見ると、スリランカが1114人(37.8%)、東アジア(中国・日本・台湾)が1040人(35.3%)です1。日本の研究者も著者に加わっています。参加した時点の上の血圧は平均144mmHg、平均年齢は59.6歳でした1。なお、けがや脳腫瘍、血管の奇形が原因で起きた出血は含まれていません1。

表のもとの人数

  • 脳卒中の再発… しっかり下げたグループ 96人/1487人、比較のグループ 152人/1457人
  • 脳出血の再発… 33人/1487人、81人/1457人

この記事の数字についている幅(信頼区間)

「信頼区間」は推定のぶれ幅のことです。本文と表に出てくる数字には、それぞれ次の幅がついていました1。人数が少ないほど幅は広くなります。

  • 2つのグループの上の血圧の差(11.2mmHg)… 10.7〜11.7mmHg
  • 脳卒中の再発(比 0.62)… 0.48〜0.80
  • 脳出血の再発(比 0.39)… 0.26〜0.59
  • 参加時に上が130以下だった200人(比 0.31)… 0.11〜0.87
  • 1%減るまでの期間(6.1か月)… 3.5〜14.8か月
  • 1年で防げた人数(16人)… 8〜25人
  • 5年で防げた人数(55人)… 28〜84人
  • 脳梗塞(比 0.92)… 0.66〜1.30
  • 亡くなった方(比 0.81)… 0.62〜1.05

著者が挙げている限界

  • 参加者が若く、75歳以上は196人しかいない。試験の参加条件や、試験に入る前に薬を試す期間があったため、高齢の方・体力の落ちた方・生活に余裕のない方への当てはめは限られる、とされています1。
  • アジアの方が中心のため、ほかの人種での効き方の違いを否定しきれない1。

TODAY今日からできること

この研究で再発を減らしたのは、追跡のあいだずっと保たれた血圧の下がり幅でした1。新しく何かを始めるより、いま飲んでいる薬と通院を続けることが中心になります。

作戦1

家庭で血圧を測って、記録に残す

  • 再発を減らしたのは1回の低さではなく、何年も低く保たれ続けたことです。
  • 記録があると、薬を足すのか、いまのままでよいのかを主治医が判断できます。
  • くわしい測り方は高血圧のページにまとめています。
今日の一手

朝、起きて1時間以内、朝の薬を飲む前・朝ごはんの前に血圧を測って、数字を書き留めてください。1日1回で構いません。

作戦2

薬を自分の判断でやめない・減らさない

  • 実際の診療では、目標の血圧に届かない・続かないことが多いとされています1。飲み忘れや中断が、最も多い落とし穴です。
  • 血圧が下がったことは、薬が効いている印であって、やめてよい合図ではありません。
今日の一手

今日の分をもう飲んだかどうか、いま薬の袋を見て確かめてください。

飲み忘れに気づいても、まとめて2回分は飲まないでください。立ちくらみ・ふらつき・だるさが出ているときも、自己判断でやめずに、まずご相談ください。減らす調整も診察でできます。

作戦3

次に血圧を診てもらう日を決める

  • 途中でやめると、効き目の積み上がりはそこで止まります。
  • 通院が途切れると、薬が合っているかを確かめる機会もなくなります。
今日の一手

次の受診日が決まっていなければ、今日のうちに予約を取ってください。

脳出血そのものについては脳出血のページ、血圧の薬や目標値の考え方は高血圧のページにまとめています。

PERSPECTIVE減ったのは「脳出血の再発」

同じ研究で、何が減って、何は分からなかったのかもはっきりしています。表の「比」は起こりやすさの比べ方で、1より小さいほど、しっかり下げたグループのほうが少なかったことを表します1。

何が起きたか結果
脳卒中の再発(全体)減った
(比 0.62)
脳出血の再発減った
(比 0.39)
脳梗塞分からない
(比 0.92)
亡くなった方分からない
(比 0.81)
入院や治療が必要になるような重い出来事増えていない

この研究が確かめたのは、脳出血をもう一度起こさないことです。「血圧を下げれば脳梗塞も死亡も減る」とまでは言えません1。

ただし、減らないと分かったわけでもありません。また、しっかり下げたことで重い出来事が増えることもありませんでした1。

これは退院後の話

参加者が試験に入ったのは、脳出血から中央値で81日後でした1。著者も「この結果は数週間から数か月あとに始める降圧を主に示すもので、発症直後にいつから始めるのが最適かは分からない」としています1。

つまりこれは、退院してから何年も続けていく血圧の話です。入院中の血圧の下げ方は、これとは別の判断になります。

血圧と脳の関係は、再発予防だけではありません。血圧を下げることと認知症とのつながりを扱った記事もあります。

血圧を下げると認知症は減らせる?

GUIDEこんなときは一度ご相談ください

次の症状が「突然」起きたときは、様子を見ず 119番・救急要請を

ご相談の目安

急ぐ症状がないときのご相談は、当院(0942-42-1155)へどうぞ。次のような場合が目安です。

1つでも当てはまれば、ご相談ください。

受診されたときの進め方

  1. いまの高さを確かめる初診の日——家庭で測った記録と診察室での測定を突き合わせ、日ごろの高さを確かめます
  2. 脳と血管の状態を確かめる初診の日——必要と判断した場合は原則として当日に検査し、結果も当日ご説明します。血液検査で腎臓なども確認します
  3. 薬と次の受診日を決める1〜2か月ごと——薬の量や組み合わせを調整し、次に血圧を診る日を決めます

受診のとき、あればお持ちください

なくても受診できます。

FAQよくあるご質問

Q. 上の血圧は、いくつを目指せばよいですか?

この研究が根拠にしているガイドラインでは、130/80未満が目標です2。これは診察室で測った値です。家庭で測るときは、上が125・下が75未満が目安になります3。

ただし目標の数字は年齢・持病・ふらつきの有無で一人ひとり違います。「上を120未満」という一律の目標は、この研究では示されていません1。主治医と決めてください。

Q. すでに130まで下がっています。薬を減らせますか?

この研究では、参加した時点で上の血圧が130以下(試験で測った血圧)だった方でも、下げたグループのほうが再発は少なくなっていました1。減らすかどうかはご自身で判断せず、体調と合わせてご相談ください。

Q. 薬はいつまで飲むのですか?

この研究の追跡は中央値(真ん中の値)で42か月(3年半)で、続けた期間が長いほど効き目は積み上がっていました1。長く続ける前提の治療とお考えください。

Q. 血圧を下げれば、脳梗塞も防げますか?

この研究では、脳梗塞が減るかどうかは分かりませんでした(比 0.92)1。減らないと分かったわけではありません。はっきり減ったのは脳出血の再発です。

Q. 高齢ですが、同じように考えてよいですか?

参加者の平均は59.6歳で、75歳以上は196人だけでした1。著者も高齢の方や体力の落ちた方への当てはめは慎重に、としています1。ふらつきや転倒のリスクと合わせて、個別に決める必要があります。

OUR CLINIC当院での対応

脳出血のあとの長期のフォローと再発予防を承っています。血圧・血糖・コレステロールをまとめて管理でき、頸動脈エコー・MRI・CTで血管と脳の状態も確認できます。禁煙のご相談、リハビリのご相談にも応じます。急ぎの治療が必要なときは、連携する病院へすぐにお繋ぎします。

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