この記事の結論
心臓の卵円孔(らんえんこう)と片頭痛のつながりを1000人で確かめた研究で、血を固まりにくくする薬3種類のうち1種類だけ「発作が半分以下になった人」が多い結果でした1。片頭痛の原因の1つとして、今後の治療の発展につながるかもしれません。ただ、いまは心臓を調べるより、いまの頭痛の治療を続ける段階です。
根拠にした研究BMJ 2026/COMPETE試験——心臓に卵円孔のある片頭痛の1000人を、くじ引きで4つのグループに分けて12週間くらべた、中国39施設の試験です1。
こんな方に読んでほしい記事です
片頭痛と心臓の小さな穴——一見つながらない2つが、実は結びつけて語られてきました。うわさや宣伝ではなく、医学の世界で長く議論されてきたテーマです。
その穴の名前が卵円孔開存(らんえんこうかいぞん、PFO)。生まれつきある、めずらしくない心臓の構造で、とくに前兆(オーラ)のある片頭痛との関連が繰り返し報告されてきました1。
2026年、この関係に正面から挑んだ研究が発表されました1。卵円孔のある片頭痛の方に、血を固まりにくくする薬を飲んでもらったらどうなるか——1000人規模で確かめた試験です。結果は「効いたらしい」。
おなかの中にいるあいだ、赤ちゃんには心臓の右と左のあいだに、血液が通り抜ける小さな扉があります。生まれて呼吸が始まると、この扉はふつう閉じますが、閉じきらずに残ったものが卵円孔開存です。生まれつきの、めずらしくない心臓の構造です1。
なぜこれが片頭痛と結びつけられるのか。有力な考え方のひとつが「小さな血のかたまりの通り道になっている」というものです1。体のしくみとしては、こう考えられています。
もしこの仮説が正しいなら、打つ手は2つ考えられます。穴を塞ぐ(カテーテルで行う閉鎖術)か、血のかたまりをできにくくする(薬)かです。このうち閉鎖術については、これまでの臨床試験で片頭痛に対する効果は実証されていません34。そこで「では薬のほうはどうか」を確かめたのが、今回の研究です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 18〜64歳・片頭痛が1年以上続き、片頭痛の日が月4日以上ある方で、心エコーで卵円孔が確認された1000人 |
| 場所 | 中国の39施設 |
| 比べたもの | 4つの薬を、くじ引きで4等分アスピリン/クロピドグレル/リバーロキサバン/メトプロロール |
| 期間 | 薬を12週間飲み続ける |
| ものさし | 1か月の片頭痛の日数または発作の回数が、開始前の半分以下になった人の割合 |
| 参加者 | 女性75%、年齢は約38歳開始前の片頭痛は月に約7日・前兆(オーラ)のある方は24% |
この試験でのリバーロキサバンの飲み方(1日1回20mg)は、日本で認められている飲み方ではありません2。
比べる相手にえらばれたメトプロロールは、片頭痛の予防に昔から使われてきたお薬(β遮断薬)です1。
なお、この試験で使われた4つの薬は、このメトプロロールも含めて、日本では「片頭痛の予防」という効能で承認されていません。
薬ごとの結果です。
| 飲んだ薬 | 発作が半分以下 になった人 多いほど良い | 片頭痛が完全に なくなった人 多いほど良い |
|---|---|---|
| メトプロロール従来の予防薬比べるもと | 62% | 20% |
| アスピリン抗血小板薬 | 62% | 22% |
| クロピドグレル抗血小板薬 | 67% | 20% |
| リバーロキサバン抗凝固薬 | 78%いちばん多い | 33% |
抗血小板薬・抗凝固薬は、どちらも「血をサラサラにする薬」の仲間で、血を固まりにくくする仕組みが少し違います。
続いて、安全性の側を見ます。
| 飲んだ薬 | 何らかの出血が あった人の割合 少ないほど良い | 副作用で薬を やめた人の数 少ないほど良い |
|---|---|---|
| メトプロロール従来の予防薬比べるもと | 0% | 7人 |
| アスピリン抗血小板薬 | 10% | 0人 |
| クロピドグレル抗血小板薬 | 8% | 1人 |
| リバーロキサバン抗凝固薬 | 11% | 2人 |
3つの薬はいずれも、メトプロロールに負けていませんでした1。そのうえでリバーロキサバンだけ、発作が半分以下になった方が多い結果でした1。
正確には、リバーロキサバンは78.4%、メトプロロールは61.8%。施設ごとの偏りをならして計算した差が16.2ポイントです(統計上のばらつきを見込んだ幅は6.0〜26.4ポイント)1。100人で考えると、16人多く「半分以下」に届いた計算になります。ただしこの差は、比べる相手の条件によって大きくも小さくも見える数字です。差の大きさだけを取り出して覚えないでください。
「よく効いたのなら、自分にも」と思われたかもしれません。論文を書いた本人たちが、この結果にブレーキをかけています1。
続けたのは12週間で、それより長く飲んだときに効果が続くのか、出血が増えないのかは調べられていません1。参加者は東アジアの方が大半で、他の人種に当てはめるときは慎重に考える必要があります1。
卵円孔といちばん関係が深いとされるのは、前兆(オーラ)のある片頭痛です。ところがこの試験の参加者でオーラのある方は4分の1にとどまり、著者は「この人数では確かめるだけの力が足りない」と明記しています1。「オーラの有無で効き方が違う」とは言えていません1。
比べる相手のお薬が、少なめの量だった
この試験のメトプロロールは1日50mg。論文には、欧米では通常1日100〜200mg、中国の指針では1日50〜100mg、日本の手引きでは1日40〜120mgとあります1。著者は「この少なめの量が比べる相手の効果を低く見せ、その結果リバーロキサバンの見かけの利益を大きくした可能性がある」と自分たちで書いています1。
参加者は、自分がどの薬かを知っていた
4つの薬は形も飲む回数も違うため、全員に同じ見た目の薬を配ることができませんでした。効果を判定する医師だけが知らされない設計になっていますが、記録そのものは本人の申告です1。
オーラのある方だけを取り出すと差は27.3ポイント
メトプロロールとの差は、全体では16.2ポイントでしたが、前兆(オーラ)のある方だけを取り出すと27.3ポイントでした1。
研究者たち自身も、この結果だけでいまの予防薬を置き換えるべきではないと念を押しています1。もっと大きな、きちんとした試験で確かめる必要があるからです1。
それでも、この研究には期待できる意味があります。「片頭痛の原因の1つに、小さな血のかたまりが関わっている人がいるのかもしれない」という考えに、くじ引きで分けた比較として手がかりが出たからです1。同じ研究班は、続きの研究をすでに進めています1。片頭痛の原因の1つとして、今後の治療の発展につながるかもしれません。
この話は、終わった話ではなく始まったばかりの話です。
この試験では、医学的に「大出血」と分類される重い出血は、4つのグループのどこにも起きませんでした1。
ただし「出血ゼロ」ではありません。血を固まりにくくする3つの薬では、10人に1人前後に何らかの出血が起きています1。多くは自然におさまる程度でしたが、出血が原因で入院した重い出来事が1件ありました。リバーロキサバンを飲んでいた25歳の女性が、卵巣の一部(黄体)が破れておなかの中に出血し、入院したものです(治療で回復しています)1。片頭痛で通われる方には若い女性が多く、この1件は他人事ではありません。
いっぽうで、比べる相手のメトプロロールにも副作用はありました。薬ごとの代表的なものは次のとおりです。
| 飲んだ薬 | 代表的な 副作用 | 起きた方の 割合 |
|---|---|---|
| アスピリン抗血小板薬 | 胃腸の症状 | 12%(29人) |
| クロピドグレル抗血小板薬 | 胃腸の症状 | 2%(5人) |
| リバーロキサバン抗凝固薬 | 胃腸の症状 | 2%(6人) |
| メトプロロール従来の予防薬 | 脈が遅くなる | 4%(9人) |
| メトプロロール従来の予防薬 | 血圧が下がる | 7%(17人) |
副作用のために薬をやめた方は、メトプロロールが4つのグループで最も多い7人でした1。どの薬にも得意・不得意がある、というのがこの結果の読み方です。
ご自身の心臓を調べたほうがいいのか。この記事を読んでいちばん気になるのはそこだと思います。いまのところ答えは「急いで調べに行く段階ではありません」です。理由は3つあります。
片頭痛でお困りなら、先に確かめる価値があるのは心臓ではなく、いまの頭痛の治療が合っているかどうかです。片頭痛の予防治療は、この10年で選べる薬が大きく増えました。予防の注射と飲む予防薬について、それぞれ記事があります。
新しい研究の続きを待つあいだにも、できることがあります。
いまのお薬を、自己判断で変えない
頭痛の日数を書き出す
前兆(オーラ)があるかを主治医に確かめる
とくに作戦2は、今日から始められて効果がはっきりする一手です。「月に何日、痛くて予定を変えたか」を記録しておくと、予防薬を始めたときに効いているかどうかを、印象ではなく数で判断できます。
次のいずれかがあれば、脳卒中など緊急の対応が要るサインのことがあります。
以下にあてはまるときはすぐに119番・救急要請を
様子を見ない・自分で運転しない。この2つだけ覚えておいてください。
119番までではなくても、いつもと違う頭痛が続くときは早めにご相談ください。
おすすめしません。この研究のアスピリンは1日300mgを医師の管理のもとで12週間続けたもので、それでも10人に1人に何らかの出血が起きています1。ご自身の判断で始める話ではありません。
そう見えますが、まだ確かめられていません。オーラのある方は全体の24%しかおらず、著者自身が「確かめるだけの力が足りない」と書いています1。
いいえ。著者自身が「第一選択の予防薬を置き換える根拠ではない」と書いています1。いまの治療が効いているなら、続けることが最善です。
つつみ脳神経外科クリニックでは、片頭痛について以下の対応を行っています。
なお、卵円孔を確認する検査は心臓の超音波検査です。当院の超音波検査は頸動脈のみで、心臓の超音波検査は行っておりません。
お薬の使い分けと、予防の注射を続けたときの記録は、次の記事にまとめています。
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