歯周病があると、認知症になりやすい?——久山町で1396人を10年追った研究から

コラム

診察室の机をはさんで、白衣の医師が青いカーディガンの年配の患者に、タブレットに映した歯と脳の図を指しながら説明しているイラスト。タブレットの中では、歯ブラシを当てた歯から脳へ破線の矢印が伸びている。大きな見出しで「歯周病があると、」「認知症になりやすい?」、まわりに「久山町の研究」「歯みがき」「歯科で相談」「今日から」の4つのラベルが並び、机の上には予定に丸を付けたカレンダーが置かれている。右上の円形のカットでは、同じ患者が洗面所で歯をみがいている

この記事の結論

久山町の調査では、歯ぐきの状態が悪い方ほど、10年のあいだに認知症と診断された方が多いという結果でした。いちばん悪いグループで、いちばん良いグループの1.7倍です。ただし、歯周病が原因と決まったわけではありません。歯みがきと歯科の受診は、今日から始められます。

根拠にした研究Journal of Clinical Periodontology 2026/久山町研究——60歳以上の1396人を10年追いかけた調査です1。

こんな方に読んでほしい記事です

  • 歯をみがくと血が出ることがあるが、痛くないのでそのままにしている
  • 何年も歯科に行っていない。行くきっかけがないまま過ぎている
  • 家族のもの忘れが心配で、家でできることを探している

福岡県久山町では、住民のほぼ全員を対象にした健康調査が1961年から続いています。この調査で、歯ぐきの状態と、そのあと10年のあいだに認知症になったかどうかを調べました1。

歯と口を扱うのは今回が初めてです。同じ町の調査は、ほかの記事でも紹介しています。

FINDINGS歯ぐきが悪いほど、認知症が多かった

歯科で測る、3つの物差し

この研究が主に見たのは、歯ぐきの状態を表す3つの数字です。

測ったもの何を測っているか
歯周ポケットの深さ歯と歯ぐきのあいだの溝の深さ
付着の喪失歯を支える土台(歯ぐきと骨)と歯とのくっつきが失われた量
出血した場所の割合器具を当てて血が出た場所の割合
歯を1本ずつ大きく描いた断面図を3つ横に並べた対比図。左は、歯と歯ぐきのあいだの溝に目盛りの付いた細い器具を差し込み、溝の深さを青い両向きの矢印で示している。中央は、歯の付け根の高さを表すオレンジの破線から溝の底までを、1本の長いオレンジの両向き矢印で示している。右は、同じ器具を歯ぐきに当てた場所に赤い小さな丸が3つ付いている。3つとも歯の形・向き・大きさは同じで、違うのは矢印と赤い丸だけ。ラベルは左から「深さ」「土台の減り」「出血」

図の3つは、表と同じものです。左から、歯周ポケットの深さ(深さ)/付着の喪失(土台の減り)/出血した場所の割合(出血)です。

10年で、認知症と診断された方の多さ

参加した1396人を、3つの数字それぞれで良い順に4つのグループへ分けています。

1396人を、歯ぐきの状態が良い順に4つのグループへ

比べたのは、両端の2つだけです

分け方いちばん良い
グループくらべるもと
いちばん悪い
グループ認知症が何倍
歯周ポケットの深さ11.7倍
付着の喪失11.6倍
出血した場所の割合11.6倍

3つの数字のどれで分けても、歯ぐきが悪いグループのほうが多いという結果でした。

年齢・性別・血圧・糖尿病・喫煙・残っている歯の本数などの違いをそろえたあとの数字です。棒の長さは0〜2倍のものさしで描いています。

アルツハイマー型でも、悪いグループのほうが多い

認知症のうち、アルツハイマー型は194人でした。出血した場所の割合がいちばん高いグループでは、アルツハイマー型が1.6倍でした。

もう少し詳しく知りたい方へ(数字の幅と、この研究の限界の話です)

実際の人数

歯周ポケットがいちばん浅かった348人のうち48人、いちばん深かった350人のうち79人が、10年のあいだに認知症と診断されています。これは年齢などの違いをそろえる前の実数で、本文の表の倍率とは別の数字です。

4つのグループの区切り

測ったものいちばん良い
グループ
いちばん悪い
グループ
歯周ポケットの深さ1.90mm以下2.84mm以上
付着の喪失2.25mm以下3.47mm以上
出血した場所の割合3.9%以下34.0%以上

このmmは、1本ごとの深さではありません。口の中で測った場所すべてを平均した値です。歯科で「ここは何mm」と言われる1か所の数字とは、別のものです。参加者全体の歯周ポケットの深さは、平均2.44mmでした。

倍率とその幅(信頼区間)

いちばん悪いグループといちばん良いグループを比べた値です。全認知症では、歯周ポケットの深さ1.72(1.18〜2.49)、付着の喪失1.59(1.07〜2.38)、出血した場所の割合1.56(1.09〜2.22)。アルツハイマー型では、出血した場所の割合1.61(1.06〜2.44)。血管性では、歯周ポケットの深さ2.20(0.89〜5.44)で、幅が1をまたいでいます(=差があるとは言えない)。幅が広い数字は、まだ値が定まっていないというサインです。

5年後にもう一度測った結果を入れても

2012年に948人が2回目の歯の検診を受けました。5年目以降はこの新しい値に入れ替えて計算し直しても、いちばん悪いグループのほうが多いままでした(歯周ポケットの深さ1.67、付着の喪失1.81、出血した場所の割合1.47)。ただし、血管性の認知症とのつながりは、この計算では分かりませんでした。

確かめ直した計算

  • もの忘れが先に始まっていた可能性をみるため、追跡の最初の2〜3年に認知症と診断された方を除いた計算もしています。3年ぶんを除くと弱まったものもありましたが、出血した場所の割合と認知症のつながりは残りました。
  • 追跡中に亡くなった方を別扱いにする計算でも、結果は変わりませんでした。偏りを重みづけでならす計算では、歯周ポケットの深さと付着の喪失は変わりませんでしたが、出血した場所の割合のつながりは弱まりました。
  • 測られていない別の原因がこの結果を全部説明するには、その原因が歯ぐきの状態とも認知症とも、それなりに強く結びついている必要があります(2.5〜2.8ほどの強さ)。

この研究の限界

  • 栄養の状態と、気分の落ち込みが測られていません。どちらも歯ぐきの状態とも、頭の働きとも関係しうる要素です。
  • 歯ぐきを測ったのは歯の外側だけで、内側は測っていません。歯周病の程度を実際より軽く見積もっている可能性があります。
  • 日本の1つの町での調査なので、そのままどこにでも当てはまるとは限りません。

TODAY今日からできること

この研究で歯ぐきの状態が悪かった方には、共通する暮らしぶりがありました。歯みがきの回数が少なく、歯科に行っていないという2点です。

歯周ポケットの深さ歯みがきが
1日1回以下
定期的に歯科に
行っていない
いちばん浅いグループ26%61%
いちばん深いグループ39%76%

この表の割合と、作戦2に出てくる歯の本数は、年齢と性別の違いをそろえたあとの値です。歯の本数は小数を四捨五入しています。

やることは3つです。どれも今日のうちに終わります。

作戦1

歯みがきを、1日2回以上にする

  • この研究では、歯みがきの回数が少ないことが、歯ぐきの状態とは別に、認知症と結びついていました1。
  • 回数を増やすだけなら、道具も費用も要りません。
今日の一手

朝だけの方は今夜、夜だけの方は明日の朝、もう一度みがきましょう。これで1日2回になります。

作戦2

次に歯科へ行く日を、今日決める

  • 歯周ポケットの深さも出血も、ご自身では測れません。歯科で器具を当てて初めて分かる数字です。
  • 歯ぐきの状態がいちばん悪かったグループは、残っている歯も少なくなっていました(平均16本。いちばん良いグループは21本)。
今日の一手

歯科に電話して、次に行く日の予約を取りましょう。

通う間隔は歯ぐきの状態で変わります。何か月ごとがよいかは歯科でご相談ください。

作戦3

歯ぐきの状態を、数字で聞く

  • 歯ぐきの状態は、この研究のように数字で表せるものです。
  • その数字がいちばん悪いグループに、認知症と診断された方が多くいました1。だからこそ、いまの自分の数字を知ることに意味があります。
今日の一手

次に歯科に行ったときに、「歯ぐきの状態はどうですか」と聞いてみましょう。

この3つは、歯を守るためにそのまま役立ちます。認知症を防ぐためだけの手ではありません。だからこそ、結果がはっきりする前でも、始めて損がありません。

PERSPECTIVE分かったことと、分からないこと

この研究から分かったことは3つ。分からないことも、同じだけあります。

この研究が示したこと

  • 歯ぐきの状態が悪いグループに、認知症と診断された方が多かった
  • 住民の86%が参加し、10年のあいだ誰ひとり追跡から外れていない
  • もの忘れが先に始まっていた方を外して数えても、歯ぐきの出血とのつながりは残った

この研究では答えが出ないこと

  • 歯周病が認知症を起こしているのか
  • 歯周病を治せば、認知症が減るのか
  • 測られていない要素が影響していないか

上の3つは、その年齢の住民の86%が参加した調査の結果です1。特定の人だけを選んで出た結果ではない、ということです。

なぜ関係しうるのか

考えられている道筋は、2つあります。

きっかけどうやって脳まで届くか
歯ぐきの炎症炎症を起こす物質が血にのる → 全身をめぐる → 脳を守る関門が傷む → 脳の中にも炎症が及ぶ
歯周病の菌菌が増える → 血管の内側が傷む → 脳の血のめぐりが落ちる

いずれも考えられている筋道であって、この研究が確かめたものではありません1。

同じ久山町の調査は、次の2本でも紹介しました(37年分・5年分)。

認知症になる人は減ってきている? 軽度認知障害(MCI)と言われたら、もう元には戻らない?

GUIDEこんなときは一度ご相談ください

もの忘れのほうは、当院にご相談ください。

ご相談の目安

  • 同じことを何度も聞くようになった、と家族に言われた
  • 半年前にできていたこと(買い物・お金の管理・ひとりでの外出)が、しづらくなってきた
  • 血圧・血糖・コレステロールの薬が、途中でやめたままになっている
  • ご本人よりご家族のほうが心配している

1つでも当てはまれば、ご相談ください。ご本人おひとりでも、ご家族とご一緒でも構いません。

受診されたときの進め方

  1. いまの状態を測る初診の日 — 認知機能の検査を行い、いまの位置を確かめます
  2. 頭の働きを下げている別の原因がないかを調べる初診の日
    • 飲んでいる薬の見直し
    • 血液の検査(甲状腺やビタミンなど)
    • 頭部MRI(脳の萎縮・細い血管の変化・頭の中の出血や水のたまり)

    MRI・CTは、医師が必要と判断した場合、原則として当日に受けていただけます。薬の影響や甲状腺の状態など、治せる原因が見つかることがあります。

  3. 見る間隔を決める半年〜1年ごと — 半年ごとか1年ごとかを決め、毎回同じ検査で変化を追っていきます

受診のとき、あればお持ちください

  • お薬手帳(いま飲んでいる薬が頭の働きに影響していないかを確認できます)
  • 健診の結果(数年分あると、変化の向きが分かります)
  • ご家族から見て「変わった」と思う出来事のメモ(日付があると、いつから変わったのかが分かります)

なくても受診できます。

FAQよくあるご質問

Q. 歯をみがけば、認知症を防げますか?

そこまでは分かりません。この調査で分かったのは、歯ぐきの状態が悪かった方に、10年のあいだに認知症と診断された方が多かったということまでです。歯周病を治せば認知症が減るかどうかは、まだ確かめられていません。

ただ、歯みがきと歯科の受診は、歯を守るためにそのまま役立ちます。結果がはっきりするのを待つ理由はありません。

Q. 歯が何本か抜けています。入れ歯です。もう手遅れですか?

いいえ。歯が残っているなら、その歯のまわりの状態が、この研究が見たものそのものです。今回の調査に参加した1396人は、歯が残っている方々でした。残っている歯にも、ポケットの深さや出血はあります。

歯が1本も残っていない方については、そのこと自体と認知症のつながりは見られませんでした。ただしこれは、主な計算とは別に行われた追加の計算での結果です。

Q. 歯科にはどのくらいの間隔で通えばよいですか?

この研究は間隔までは調べていません。歯ぐきの状態によって変わりますので、次に受診したときに歯科の先生と決めてください。

Q. 歯をみがくと血が出ます。すぐ受診したほうがよいですか?

一度、歯科でみてもらってください。 この研究が数えた出血は、歯科で器具を当てて調べたものです。ご自身の歯みがきで出る血とは測り方が違うので、そこから研究と同じ数字は出せません。ただし、どちらも歯ぐきの炎症を見ているという点では同じものです。

歯ぐきの状態は、ご自身では測れません。血が出ることが続くようでしたら、痛みがなくても歯科でご相談ください。

Q. もの忘れの相談に、予約は必要ですか?

ご予約なしでも受診いただけます(お電話やWEBからのご予約もできます)。MRI・CTは、医師が必要と判断すれば、原則としてその日のうちに受けていただけます。

Q. 費用はどのくらいかかりますか?

保険診療の範囲内です。実際にお支払いいただく金額は、加入されている保険や年齢によって変わります。気になる場合は 0942-42-1155 までお問い合わせください。

OUR CLINIC当院での対応

もの忘れのご相談を承っています。

歯の治療そのものは歯科の領分です。かかりつけの歯科医院、まだお決まりでなければお近くの歯科医院へご相談ください。

当院は、ご予約なしでも受診いただけます。ご予約・ご質問は 0942-42-1155 へどうぞ。

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