70歳を過ぎたら、コレステロールの薬は飲んだほうがいいですか?——心臓や脳の病気がない70歳以上・約1万人を6年間しらべた研究から

コラム

フラットなイラスト。診察机をはさんで、白衣の医師と青いカーディガンの年配の患者が健診の紙の棒グラフを一緒に見ている。左に「70歳を過ぎたら、コレステロールの薬は必要?」の見出し

30秒でわかるこの記事

今回わかったこと

コレステロールを下げる薬で、心筋梗塞などの発作が3割少なくなりました。「元気なまま過ごせる年数」が延びるとは示されませんでした。

あなたに関係すること

心筋梗塞・脳卒中などを起こしたことがなく、糖尿病や認知症もない、70歳以上の方の話です。健診でコレステロールが高いと言われ、薬を始めるか・続けるか迷っている方に向けて書いています。

次にすること

  • 5つの病気に当てはまらないか、確かめる
  • 健診の結果とお薬手帳を、次の受診に持っていく
  • いま飲んでいる方は、自分の判断でやめない

根拠New England Journal of Medicine 2026/STAREE 試験——70歳以上の9971人を、偽薬(ダミーの薬)と比べて約6年追いかけた試験です1。

この印がついた4か所を先に読むと、3分ほどで要点がつかめます。折りたたみは開かなくて構いません。

WHO IS IT FORこれは、あなたの話ですか?

この試験に参加したのは、70歳以上で、ひとりで日常生活を送れている方のうち、次の病気がない方です。

次の病気を、言われたことは?

一つでもあれば、この記事の話ではありません。いまの薬は主治医の指示どおり続けてください。

どれもなければ、この記事の話です。

試験の仕組みのイラスト。70代の参加者が自分でくじ引きの箱から紙を引き、そこから2本の道が右奥へ分かれる。上の道「薬」に4人、下の道「偽薬」に4人が後ろ姿で「約6年」先へ歩いていく。先頭の人はどちらも同じ白い瓶を持っている。
くじ引きで「薬」と「偽薬」の2つの列に分け、どちらを飲んでいるか本人も医師も知らないまま、約6年追いかけました。
もう少し詳しく知りたい方へ(読み飛ばして構いません)

どんな試験だった?(4段)

  1. 対象

    元気な70歳以上 9,971人

    オーストラリア。心臓や脳の病気、糖尿病、認知症のない方

  2. くじ引きで2つに

    薬 4,984人 / 偽薬 4,987人

    薬はアトルバスタチン40mg。どちらを飲んでいるかは、本人も医師も知らされていません

  3. 追いかけた期間

    約6年(中央値5.9年)

    半分の方は6年より短く、半分の方はそれより長く見ています

  4. 調べたこと2つ

    発作は減る? / 元気なまま長く過ごせる?

    この2つを、始める前に決めていました

医療者の方へ——参加者の顔ぶれ

  • 平均年齢 74.7歳。75歳以上が40%(70〜74歳が60%)。85歳以上は408人(4.1%)
  • 女性 52%
  • LDLコレステロール 平均127mg/dL(コレステロールが特別に高い方ばかりを集めた試験ではありません)
  • 血圧の薬を飲んでいた方 46%。飲んでいる薬は中央値2種類
  • 白人 98%、アジア系 0.8%。参加できたのは自立して暮らしている方だけ(ADL 6項目すべて支障なし 89%)1

FINDINGS心筋梗塞などの発作は、どのくらい減った?

1000人・約6年で起きた人の数

心筋梗塞などの発作

減った薬を飲むと、1000人のうち23人の発作を防げました。

亡くなる・認知症・体の障害のどれか

差ははっきりせず「元気なまま過ごせる年数」が延びるとは示されませんでした。

延びないと決まったのではなく、この試験では延びる効果を確かめられなかった、という意味です。

発作=心筋梗塞、脳卒中、心臓や血管の病気で亡くなること、心臓の血管の治療。棒のものさしは、どちらも 0〜150人。

減ったのは何? 脳卒中は?

1000人・約6年で

心筋梗塞

減った
偽薬の方27人
薬を飲んだ方16人

1000人・約6年で

脳卒中

差ははっきりせず
偽薬の方28人
薬を飲んだ方24人

心臓の血管を広げる治療(カテーテルなど)が必要になった方も減りました(1000人中 38人→22人)。棒の長さは 0〜30人のものさしです。

もう少し詳しく知りたい方へ(読み飛ばして構いません)

医療者の方へ——この記事の数字についている幅

発作のどれか=偽薬 8.3%・薬 6.0%。本文の 83人・60人は、これを 1000人に直した目安です。

項目薬/偽薬
の人数
ハザード比
(95%信頼区間)
発作のどれか(主要1)297/4120.70(0.61–0.82)
死亡・認知症・障害(主要2)637/6760.94(0.84–1.05)
心筋梗塞79/1370.57(0.43–0.75)
脳卒中122/1380.87(0.68–1.11)
心臓の血管の治療110/1900.57(0.45–0.72)
心臓や血管の病気で死亡74/741.00(0.72–1.37)
すべての死亡395/4330.91(0.79–1.04)
認知症290/2801.03(0.87–1.21)
持続する身体障害60/800.74(0.53–1.04)
どの理由であれ入院2744/27710.99(0.94–1.04)

主要1は P<0.001、主要2は P=0.25。主要2つ以外は多重性未調整(原著 Table 2 脚注)。NNT 37 は中央値5.9年時点の値。「ハザード比」は起こりやすさの比で、1より小さいほど薬の側で起きにくかったことを表します。

コレステロールと、飲み続けた割合

項目薬を飲んだ方偽薬の方
悪玉(LDL)の下がり幅率で約38%と13%48mg/dL16mg/dL
5年後も飲み続けていた56%47%
別のスタチンを処方された主治医から・推定値—19%

悪玉(LDL)コレステロールの群間差は 31mg/dL(95%信頼区間 30–33)。偽薬の方の一部が別のスタチンを飲んでいたぶん、2つの群の差は縮む方向に働き、効果は控えめに出ている可能性があります。

75歳以上・女性ではどうか

75歳以上ではハザード比0.73(0.59–0.89)、70〜74歳では0.67(0.53–0.83)で、減り方は同じくらいでした。女性は0.85(0.67–1.08)、男性は0.62(0.51–0.75)です。交互作用の検定は報告されておらず、「女性には効かない」とも「男性によく効く」とも言えません。85歳以上だけの結果は出ていません1。

WHYなぜ、発作は減ったのに「元気な年数」には差が出なかった?

矛盾しているように見えますが、「薬が効く範囲」を絵にすると筋が通ります。

1000人・約6年で(偽薬の方)亡くなった方 87人の、亡くなった理由

薬が働くのは青の部分だけ。

研究で分かったこと

心臓や血管の病気で亡くなった方は、1000人中 15人と15人で同じです。亡くなった方の8割は、心臓や血管以外の理由でした1。

考えられる理由推定

亡くなる理由の大半には薬が効かないため、「亡くなる・認知症・障害」の合計では薬の効果が薄まった、と考えられます1。

CAUTION良いことと困ることを、同じ物差しで見る

起きたこと1000人あたり偽薬の方薬を飲んだ方
減った(比べる物差し)
発作のどれか心筋梗塞・脳卒中など83人60人減った
注意(薬の方で多かった)
筋肉・関節の不調重いものはどちらもまれ(2人と2人)294人320人少し多い
肝臓・胆道の不調重いものはどちらもまれ(1人と2人)9人33人多い
糖尿病にかかわる出来事重いものはどちらもまれ・中身は原著に記載なし27人40人少し多い
副作用で薬をやめた61人72人少し多い

重い副作用は 27人と27人で増えませんでした。軽い不調(筋肉・肝臓・血糖)は薬の方でやや多く出ています。

もう少し詳しく知りたい方へ(読み飛ばして構いません)

はっきりしない/同じ だった3つ(1000人あたり)

起きたこと1000人あたり偽薬の方薬を飲んだ方
亡くなった(すべての原因)87人79人はっきりせず
認知症56人58人同じくらい
重い副作用27人27人同じ

「はっきりしない」は、減らないと分かったのではなく、この試験では差を確かめられなかったという意味です。結果は参加者全員、副作用は1回以上飲んだ方が分母です(約2%の差)。副作用は試験の医師が薬と関係ありうると判断したものです1。

医療者の方へ——副作用の割合と出どころ

どんな出来事か薬を
飲んだ方
偽薬の方
筋肉や関節の不調32%重い 0.2%29%重い 0.2%
肝臓・胆道の不調3.3%重い 0.2%0.9%重い 0.1%
糖尿病にかかわる出来事4.0%重い 0.1%未満2.7%重い 0.1%未満
神経の不調24%重い 0.2%24%重い 0.1%

分母は1回以上飲んだ4876人と4847人(修正ITT)。試験の医師が関連ありと判断した事象のみで、統計検定・信頼区間はありません(「有意に増えた」とは書けません)。重篤有害事象は2.7%と2.7%、医学的に重要な有害事象は8.8%と6.7%、有害事象による中止は7.2%と6.1%。始める時点で筋肉の症状があった方が46%いました。ミオパチー・横紋筋融解症・肝不全の個別件数は原著に記載がありません1。

PERSPECTIVEこの結果は、日本の私にも当てはまる?

ここまでの結果にご自身の考え方をのせれば、飲むか飲まないかは、主治医と一緒に決められる問いになります。

もう少し詳しく知りたい方へ(読み飛ばして構いません)

医療者の方へ——この試験の限界(著者の記載)

  • 参加者は白人98%・第一言語が英語96%で、人種・言語の一般化に限界がある
  • COVID-19 パンデミック中も募集し、評価の多くが遠隔になった(前後で効果に差はなし)
  • 初めての発作を防ぐ目的の方に絞ったため、より虚弱で持病の多い高齢者には一般化できない
  • 体の障害が新しく起きた方の人数が少なく(60人と80人)、その部分だけの結論は出せない
  • 6年より先の効果と、脳梗塞・脳出血の内訳は原著に記載がない
  • 5年時点で試験薬を続けていたのは56%と47%。中止の最多理由は「本人の意思」(16%と16%)。副次評価項目・サブグループは多重性未調整1

GUIDE私はどうすれば?

今日からできること(3つ)

いま、この場で

5つの病気に当てはまらないか、確かめる

「これは、あなたの話ですか?」の5つの病気がないかを確かめ、健診の紙で自分の悪玉(LDL)コレステロールの数字を見ておきます。試験の参加者は平均127mg/dLでした。

次の受診のときに

健診の結果とお薬手帳を、次の受診に持っていく

健診の結果・お薬手帳・気になる症状のメモをそろえて、次の受診で主治医に「この薬を続けるか(始めるか)」を相談します。

やめたくなったとき

いま飲んでいる方は、自分の判断でやめない

気になる症状が出たら、やめる前に当院か主治医に連絡します。

こんなときは一度ご相談ください

1つでも当てはまれば、ご相談ください。

薬とは別に、血圧を測る・歩く・たばこをやめることも広くすすめられています。アスピリンの記事と脂質異常症のページでご紹介しています。

OUR CLINIC当院に相談すると、何をする?

コレステロールをはじめとする生活習慣病のご相談は、当院で承っています。

受診の前に、そろえるもの

  • 健診の結果(コレステロール・血糖・血圧の数値がわかるもの)
  • お薬手帳(ほかに飲んでいる薬によっては、筋肉の副作用が出やすくなるものがあります2)
  • 筋肉の痛み・だるさなど、気になっている症状のメモ(いつからあるか)

当院で

  1. 確かめる初診の日 診察で確かめるのは4つです。
    • 心臓・脳・首の血管の病気や糖尿病がないか
    • いま飲んでいる薬
    • 健診の数字
    • ひとりで日常生活を送れているか
  2. 調べる初診の日〜後日 院内で血液検査をします。調べるのはコレステロール・血糖・肝臓と腎臓の働きです。血液検査の結果は後日のご説明です。必要に応じて、頸動脈エコー・MRIで血管の状態を調べます。

    これらは薬を出すための検査ではなく、ご自身の血管の状態を知り、必要な対策を選ぶための検査です。

  3. 一緒に決める結果が出てから 始めるか・続けるか・量をどうするかを、ご一緒に決めます。合わなければ、量を減らす・別の薬に変える・いったん止める、という道があります。

ご家族の同席も歓迎します。ご予約なしでも受診いただけます。

お電話でのご予約0942-42-1155 WEB予約はこちらEPARK(24時間受付)

FAQよくあるご質問

Q. 私は80歳を過ぎています。もう遅いということはありませんか。

この試験の4割を超える方が75歳より上で、85歳以上の方も408人参加しています。発作の減り方は70〜74歳の方と75歳以上の方で同じくらいでした。年齢だけを理由に、効かないと考える必要はありません。ただし、85歳以上だけを取り出した結果は出ていません1。

Q. コレステロールの薬で、認知症は防げますか。

この試験では、認知症になった方は薬を飲んだ方290人・偽薬の方280人で、減りも増えもしませんでした。認知症を防ぐ目当てでこの薬を飲む理由は、いまのところありません。「コレステロールが高いと認知症になりやすいか」は、この試験が調べたことではありません。

Q. 飲まないと決めたら、何をすればよいですか。

飲まない選択も間違いではありません。決めたことを主治医に伝え、健診は続けて、コレステロール・血糖・血圧の数字の変化を一緒に見ていきましょう。血圧を測る・歩く・たばこをやめることは、薬とは別に広くすすめられています。体の状態が変わったとき(心臓や脳の病気、糖尿病と言われたとき)は、この記事の話ではなくなるので、あらためてご相談ください。

血圧やもの忘れについても、研究をご紹介しています。

脳梗塞・心筋梗塞のない人に、「血液サラサラ」のアスピリンは必要? 血圧を下げると認知症は減らせる? 認知症になる人は減ってきている?

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