この記事の結論
英国の研究で、帯状疱疹の生ワクチンを受けた方は、7年間で認知症と診断される割合が2割少なくなっていました。ただし調べられたのは生ワクチンだけです。ワクチンを選ぶ理由は、いまのところ認知症ではなく、帯状疱疹を防ぐことです。
根拠にした研究Nature 2025/英国ウェールズの調査——生年月日で接種を受けられるかどうかが分かれた28万2541人を、7年間追いかけた研究です1。
こんな方に読んでいただきたい記事です
帯状疱疹は、過去にかかった水ぼうそうのウイルスが体の中に潜んでいて、それが再び活動し、神経に沿って症状が出る病気です2。70歳代で発症する方が最も多くなっています2。日本では2025年4月から、その年度に65歳になる方などを対象にした帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まりました2。
同じ2025年、英国ウェールズから届いた研究が追いかけたのは、帯状疱疹ではなく認知症でした1。
日本で使えるのは、生ワクチンと組換えワクチンの2種類です2。生ワクチンは、生きたウイルスの力を弱めたタイプです。組換えワクチンは、生きたウイルスは使わず、ウイルスの一部だけを人工的に作ったタイプです。どちらを選ぶかは相談して決められます2。
| 生ワクチン | 組換えワクチン | |
|---|---|---|
| 接種の回数 | 1回 | 2回(2か月以上あける) |
| 打ち方 | 皮下に接種 | 筋肉内に接種 |
| 帯状疱疹を防ぐ力(1年後) | 6割程度 | 9割以上 |
| 帯状疱疹を防ぐ力(5年後) | 4割程度 | 9割程度 |
| あとに残る痛みを防ぐ力(3年後) | 6割程度 | 9割以上 |
| 免疫が下がっている方 | 受けられない | 受けられる |
防ぐ力は、打たなかった場合と比べて、帯状疱疹にかかる方・痛みが残る方がどれだけ減るかを表しています2。
定期接種で受けられるのは、2種類のうちどちらか一方だけです2。
帯状疱疹そのものを防ぐ力は、組換えワクチンのほうがはっきり強いことが分かります。
これから紹介する研究が調べたのは、「生ワクチン」のほうだけです1。組換えワクチンについては調べられていません。
英国ウェールズでは2013年9月に公費接種が始まったとき、生まれた日で対象かどうかの線が引かれました1。
1933年9月1日 以前に生まれた方
生涯にわたって対象外
接種した方
0%台
1933年9月2日 以降に生まれた方
接種の対象
接種した方
47%
線をはさんで、生まれた日が1週間違うだけの方どうしに、健康状態や生活習慣の差があるとは考えにくいものです。だからこの比べ方なら、ワクチンそのものの効果を見ていると考えられます。
認知症については、28万人あまりを7年間追いかけています。
| 接種した方 | |
|---|---|
| 認知症と診断される割合 | 2割少なかった。 |
| 帯状疱疹にかかる割合 | 4割近く少なかった。 |
2割減るというのは、仮に100人が接種したとすると、3〜4人が7年のあいだ認知症と診断されずに済んだ、という大きさになります。
数字の中身
対象は28万2541人。7年間に3万5307人が新たに認知症と診断されました。実際に接種した方での効果は、絶対差が3.5ポイント(95%信頼区間 0.6〜7.1、P=0.019)、相対で20%減(95%信頼区間 6.5〜33.4)でした1。「信頼区間」は推定のぶれ幅、「P」は偶然でどれくらい説明できるかを表す数字です。
この記事の「2割」はすべて、実際に接種した方の数字です。
なぜこの研究は信頼されているのか
この研究では、同じ方法で「ワクチンが帯状疱疹を減らす」というすでに分かっている効果を再現できることを確かめたうえで認知症を測っており、別の集団・別の記録でも同じ向きの結果が確かめられています1。
日本の定期接種の対象は、次のとおりです2。
その年度に、この年齢になる方が対象です
毎年度
2029年度までの特別な扱い
届いた案内に、この中の年齢が書かれていれば対象です。
このほかに、特定の免疫の病気で日常生活がほとんど送れない状態にある60歳から64歳の方も対象です2。該当するかどうか、また100歳以上の方の扱いは、お住まいの市町村の案内でご確認ください。
この特別な扱いは、2025年度から2029年度までの5年間です。65歳以上の方も、この5年のうちに一度は対象年齢に当たる計算です。
ただし当たり年(対象になる年度)は一度きりで、すでに過ぎた方もいます。接種できるのは、当たり年の年度末(3月31日)までです3。
たとえばいま68歳の方は、70歳になる年度がこれから当たり年です。一方、2025年度に市町村から案内が届いた方は、その年度が当たり年でした。
当たり年を過ぎると、次はありません。2030年度以降の定期接種は、その年度に65歳になる方が中心になります。
当たり年を過ぎた場合は自費での接種となり、費用は医療機関ごとに異なります。
定期接種の費用は市町村ごとに決められています。当院のある筑後市の金額は、次のとおりです3。
| 定期接種の費用 | 2026年8月時点 |
|---|---|
| 生ワクチン | 1回 2,500円 |
| 組換えワクチン | 1回 7,000円 × 2回=14,000円 |
生活保護受給世帯と市民税非課税世帯の方は無料です3。金額は市町村ごとに異なるので、お住まいの市町村の案内をご確認ください。
案内が手元にあるか確かめる
届いていれば「対象年齢」の欄を見ます。届いていない・見当たらないときは、市町村の窓口に年齢を伝えて、対象かどうかを聞いてください。
案内に載っている医療機関に相談する
かかりつけの先生がいない方は、その中のどこかにお電話ください。
対象に当たらなかったとき
当たり年がこれから来る方と、すでに過ぎた方がいます。どちらなのか、また自費で先に受けてよいかは、市町村の窓口でご確認ください。
もの忘れが気になるときは、ワクチンとは別に、一度検査をご検討ください。
下の表は、相談が必要な方の主なものです。持病がある方・薬を飲んでいる方は、ご相談いただいて構いません。
| 相談が必要な方 | なぜ |
|---|---|
| 血液をさらさらに保つ薬を飲んでいる方、血が止まりにくい方 | 組換えワクチンは筋肉に注射するので、血が止まりにくいと出血しやすいためです。 |
| 輸血やガンマグロブリン(免疫の成分を補う注射)を受けた方 | 生ワクチンは3か月以上あけます。大量に投与された方は6か月以上あけます。 |
|
接種してよいかを医師が個別に判断するためです。 |
2種類で出方が違います2。表の「―」は、その割合に達する症状がなかったという意味です。
| どのくらいの方に | 生ワクチン | 組換えワクチン |
|---|---|---|
| 7割以上 | ― | 注射した場所の痛み |
| 3割以上 | 注射した場所の赤み | 注射した場所の赤み、筋肉痛、だるさ |
| 1割以上 | 注射した場所のかゆみ・熱っぽさ・腫れ・痛み・しこり | 頭痛、注射した場所の腫れ、寒気、発熱、おなかの症状 |
厚生労働省が各ワクチンの資料からまとめたもので、頻度の高いものを抜粋しています2。どちらが「安全」ということではありません。
重い副反応も報告されています。頻度は分かっていませんが、次のものです2。
括弧の中は、病名の一般的な説明です。
接種のあとは、30分程度は安静にしてください2。強いアレルギー反応は、接種の直後に起こることが多いためです。体調に異常を感じたときは、様子を見ずに、その場で速やかに医師へお伝えください2。
帰宅したあとも、気になる症状があるときは、接種を受けた医療機関にご連絡ください2。急に強い症状が出たときも同じです。様子を見る必要はありません。
この研究で調べられたのは、生ワクチンだけです1。英国で組換えワクチンに切り替わったのは追跡が終わったあとなので、この結果は生ワクチンにしか当てはまりません。
ここが悩ましいところです。
帯状疱疹を防ぐ力
組換えワクチンのほうが強い
認知症について分かっているのは
生ワクチンだけ
そのため、認知症を減らしたいから生ワクチンを選ぶ、という考え方は現時点では勧められません。帯状疱疹を防ぐという確かな目的で選ぶのが確実です。
2種類のどちらにするかは、帯状疱疹とあとに残る痛みを防ぐ力を重く見るか、費用や通院の回数を重く見るかで変わります。免疫の状態も含めて、かかりつけの先生か、接種を受ける医療機関でご相談ください。
もうひとつ、年齢のことがあります。この研究で中心となったのは主に79〜80歳の方でした1。定期接種で対象になる65歳前後で接種した場合に同じことが起きるかどうかは、まだ確かめられていません。
いま確かなのは、ワクチンに帯状疱疹を防ぐ効果がはっきりしていることです。認知症への効果は、これから研究で確かめられていく部分です。
理由はまだ分かっていません。仮説は2つあります1。ひとつは、ウイルスが神経で再び暴れるのを抑えることで、脳の血管や炎症への悪影響が減るという説明。もうひとつは、ワクチンが免疫全体を整えることで効いているという説明です。どちらも仮説の段階です。
認知症については、ほかにも研究をご紹介しています。
そうとは言えません。この研究では、帯状疱疹の発症が減った分だけでは認知症の減り方を説明できませんでした1。症状として出ないままウイルスが少しずつ活動している可能性も考えられています。
いまのところ、認知症のためにその薬を飲むことは勧められません。この研究でその薬について調べられた部分は、生まれた日を使った比較ではなく通常の観察による分析で、確かさの度合いがまったく違います1。
もの忘れが増えてきた、家族の様子が以前と違う、といったご心配については、当院で検査と診断を担当しております。
頭部MRIと認知機能の検査は、いまの状態を調べる手がかりになります。認知症かどうかの判断は、検査の結果だけでなく、これまでの経過や生活の様子も合わせて行います。ご心配なことがあれば、お気軽にご相談ください。
帯状疱疹ワクチンの接種は、当院では現在行っておりません。お住まいの市町村の案内に載っている医療機関でお受けいただけます。
ご予約なしでも受診いただけます。診療時間内にお越しください(診療時間はこのページ下の案内をご覧ください)。ご予約・ご質問は 0942-42-1155 へどうぞ。
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